研究課題/領域番号 |
24810002
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久代 京一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90632539)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | マイクロ流路 / 細胞方向性移動 / マイクロパターン |
研究概要 |
細胞移動の方向性は臓器形成、免疫反応、癌の転移等、様々な生物学的現象に深く関わっている。このような方向性の制御は、従来化学勾配により行われてきた。しかし近年、化学勾配により細胞挙動を制御するのではなく、細胞接着部位の二次元形状や凹凸といった三次元構造により、細胞の伸展、移動、生死や分化誘導といった細胞挙動を制御する技術が報告されている。本研究では細胞の様々な挙動を、単に二次元マイクロパターンや、凹凸といった形状制御でなく、三次元の非対称マイクロ流路を用い、三次元の非対称性が細胞挙動に与える影響を調べることを目的としている。これまでの申請者による二次元での研究では、図形走性制御に加え、細い線状パターン上での細胞移動速度と持続性の向上や涙型パターン分岐(スプリッター)による細胞の流動変化等、様々な興味深い現象が見いだされてきたが、これらがより重要かつ生理学的にもより相応しい三次元システムでも引き起こされるのかは確認できていない。さらに、非対称な三次元の構造パターンのみ、つまり非勾配構造による効果的な細胞移動の方向誘導は世界でまだ誰も実現できていない。そこで、本研究ではこれまで二次元の表面で細胞の方向性誘導に成功した各種マイクロパターンをマイクロ流路システム用に改造し、これを達成しようと考えている。このような、勾配や流体の流れを必要としない構造のみの細胞移動誘導には様々な利点や用途があり、例えば、各種細胞別の構造標識による細胞整理デバイスや癌細胞特有の構造標識による埋め込み型癌細胞トラップデバイスや組織形成を誘導する構造パターンの組み込まれた再生医療用の足場材料等の開発にも繋がると思われる。さらに、体内に存在する様々な組織構造(例えば毛細リンパ管)が細胞移動、特に癌細胞の転移、に与える影響やそれに携わる機械的シグナル伝達メカニズムを理解するのにも役立つと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度、パターン化されたPDMSマイクロ流路内での細胞移動観察の実験過程において、液体の流れを用いないPDMSでは培地の成長因子や栄養分子の透過率が低すぎて、流路内で細胞が壊死してしまうことが判明した。この問題を克服するためパターン化された流路の材料をPDMSからハイドロゲルに切り替え、再評価を行う必要が生じた。そしてハイドロゲルの材料作製や評価、細胞接着ペプチドRGDが化学結合されたハイドロゲルへの細胞接着、そして50マイクロン幅のハイドロゲル流路の作製に成功した。しかしいざ密閉されたハイドロゲルのマイクロ流路内で細胞の移動を観察しようとすると、細胞の伸展率や移動性が著しく低下してしまった。この原因の解明と解決が本年度の最初の課題である。 このハイドロゲル流路内の悪環境の原因として挙げられるのが以下の可能性である:(1)細胞移動性向上のためハイドロゲルの弾性を100kPa以上に高めようとするあまり、より低分子なハイドロゲル構成分子を高濃度で使用しているため、培地内の重要なタンパク質等が透過できていない、または(2)脱離基のスクシンイミジル基が洗浄したにも関わらずゲル内に残り、細胞に直接あるいは間接的(例えばpHを下げる等)に悪影響を及ぼしている。
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今後の研究の推進方策 |
上記問題点の解決方法としては、前者の可能性(透過率の問題)に対しハイドロゲルの層を作成し細胞の成長や移動に関わる培地内の分子(インスリンや上皮成長因子等)が問題なくハイドロゲルを通過できているかを調べ、後者の可能性(脱離基の悪影響)に対しては異なる化学反応(例えばチオールとマレイミド反応)でハイドロゲルを作製し、流路内の細胞への悪影響の有無を確認する。 これらの課題が解決した後、ハイドロゲル流路内での細胞の移動や増殖率を測定し、従来の弾性や透過率の違うPDMSの流路内での挙動等と比べる予定である。流路内での細胞移動観察が可能な事を確認次第、様々な種類のパターン化されたハイドロゲルマイクロ流路内の構造が様々な細胞(例えば人正常上皮細胞MCF-10Aと人癌化上皮細胞MCF-7)の方向性移動にどのような影響を与えるのかを調べる。これらパターンの影響が二次元の時と同等の効果を細胞方向性移動に与えられれば、三次元構造内での細胞移動を、化学勾配等を使わず、材料のトポロジーのみでコントロールできることが世界で初めて可能となると思われる。また、正常細胞と癌細胞を比べることで構造を利用した癌転移の仕組みの理解や癌細胞のみを優先的にトラップできるデバイスの開発も目指している。 また、万が一先に述べた問題が解決されなければ、流路の天井部分を取り除いたオープンな溝のようなマイクロパターン構造で研究を進めて行く可能性も検討している。
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