本研究では、単一細胞レベルでの細胞機能制御を目指し,遺伝情報の混合を伴わない局所的電気細胞質移植法等の新しい細胞操作技術を開発している。本年度は異種の細胞を微小オリフィスを介して1:1電気融合させることにより,細胞質融合によるミトコンドリア移植を検討した。実施状況および成果を以下に示す。 (1)電気的細胞質融合マイクロデバイスの作製と最適化 PDMSマイクロデバイスの2本の流路を仕切る壁に,幅2μmのスリットアレイを設け,それらを挟むように電極2枚を配置した.壁は絶縁体であるため,スリット部で生じる電界集中を利用して2種類の細胞をスリット部に並列させた.その後,パルス(7V)を印加し,スリットを介して並べた細胞対を電気融合させ,8割の以上の成功率を得た.なお,スリット幅が2μmと細胞核よりも十分小さいため,融合後も核同士の接触を阻止でき,核遺伝子の混合を伴わない細胞質のみの融合を達成できた. (2)植物細胞ミトコンドリアの動物細胞への移植実験. 動物細胞と植物細胞は似通った機能的要素(オルガネラ)を持ち、特にミトコンドリアに関しては、両者において同じ役割(エネルギー産生)を果たしている。そこで、本年度は、植物細胞のミトコンドリアが動物細胞内で機能できるかどうかを検討するため,植物細胞のミトコンドリアを動物細胞へ移植することを試みた.動物細胞にはマウス胎児繊維芽細胞(MEF)とジャーカット細胞を用い、植物細胞にはカイワレ大根のプロトプラストを用いた.植物のミトコンドリアをMit-Psi-Mitochondrial Permeability Detection Kitを用いて染色した後,電気的融合によりジャーカット細胞へ移植した.移植直後はジャーカット細胞内に染色した植物のミトコンドリアが存在することを確認できた.今後,長期培養による細胞応答と機能性評価を行う予定である.
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