研究課題/領域番号 |
24810011
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
フロランス アントワーヌ 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 助教 (30628821)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | シリセン / 二次元物質 / 走査トンネル顕微鏡 / 局所状態密度 / バンドエンジニアリング |
研究概要 |
本年度は二ホウ化ジルコニウム薄膜上のシリセンの電子状態に関する理解が飛躍的に進んだ。特に低温走査トンネル顕微鏡(STM)・分光(STS)を行ったことでシリセンの構造とπバンドの微視的な起源が明らかとなった。5Kの低温は、室温では活発に動いているシリセンシートのドメイン境界の原子の動きを止めるのに十分なほど低く、STMによる原子分解能像からその原子配置を決定することが可能となった。隣り合うシリセンのドメイン同士は、Zr終端ZrB2(0001)とのエピタキシャル関係が180°回転しているが、境界における構造は、歪んではいるものの蜂の巣構造を保ち、縞状に見える全てのドメインが連続性を保って存在していることの証左となった。このモデルにより、Si原子とZr原子の位置関係が明らかとなったので、STSの結果を解釈することが容易となった。STSの結果、300meVのバンドギャップの存在が明らかとなった。第一原理計算により得られた局所状態密度は、STSマッピングの結果と非常に良く一致した。STSで観測された準位の起源を探るために、異なる化学状態にあるSi原子のpz軌道に関係する局所状態密度を計算した。その結果、バンドギャップの直上と直下にある電子状態がpz軌道に由来するものであることが示唆され、これらがπ*とπバンドに相当すると結論付けられた。特にZr原子の直上に位置するSi原子がこのバンドに大きく寄与することが明らかとなり、第一原理計算から予測された安定構造において、このSi原子が周りのSi原子とsp2結合的な配置関係にあることと良く一致している。このエピタキシャルシリセンの構造と電子状態に関する詳細な理解は、今後の原子・分子の吸着・反応によるバンドエンジニアリングに欠かせない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バンドエンジニアリングを行う上で重要な二ホウ化ジルコニウム薄膜上のエピタキシャルシリセンそのものの構造と電子状態に関する理解が低温走査トンネル顕微鏡観察・分光測定を行ったことにより飛躍的に進んだことは特筆に値する。
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今後の研究の推進方策 |
ブルックヘヴン国立研究所においてエピタキシャルシリセンの水素化に関する予備的な実験を行ったところ、低速電子線回折の加速電子のエネルギーと回折スポットの強度の関係に変化が見られたことから、バンド構造の変化を伴う構造変化が起きていることが期待できる。微細構造と電子状態の変化の局所的な直接観察を可能にするために走査トンネル顕微鏡装置に原子状水素源を設置し、異なる水素暴露量において表面構造の原子分解能観察、及び、スペクトロスコピーを行う。さらに、応用上重要となる水素化によるパッシベーションの効果がどの程度であるかを明らかにするために、水素化エピタキシャルシリセンを酸素にさらし、その変化をX線光電子分光を用いて調べる。
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