研究課題/領域番号 |
24810018
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
斉藤 知己 高知大学, 教育研究部総合科学系, 准教授 (80632603)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 保全生物 / 海洋生態 / 資源管理 / 絶滅危惧種 |
研究概要 |
日本は絶滅危惧種アカウミガメの北太平洋唯一の産卵場を供することから,その保全に重大な責任を担っている.さらに,黒潮と密接した生態をもつ本種にとって,四国沿岸は産卵や索餌のための重要な地域であるが,近年,上陸産卵数に増加傾向の窺える本州,九州の一部地域と違い,四国では回復の兆しが見られない.本課題は四国沿岸のアカウミガメの繁殖生態と生活史の解明を軸として総合的な調査を行い,保全に向けて効果的な対策を検討していくことを目的とした. 本対象種では個体観察とサンプル採取の機会が稀なため,調査地を高知県下の全海域とし,その繁殖生態,生活史に関する研究を産卵痕跡調査,定置網で混獲された個体の調査,沿岸に居着く個体の調査,漂着個体の調査等を組み合わせて実施する予定で,平成24年度は主に調査体制の整備に努めた.産卵痕跡調査の本格的な始動に向け,まずは申請者の勤務地である高知県土佐市近隣の海岸において本種の産卵に関する詳細な情報の収集と,地域の保護団体,学校,漁協,県や国土交通省等とのネットワークの構築から始めた.混獲個体,漂着個体は,通年,漁業者からの採取,目撃の連絡を待つこととし,これを得た際には血液性状,性ホルモン濃度等から個体の成熟度を調べ,死亡個体については剖検して摂餌生態,死因等を調べることとした. 産卵痕跡調査を土佐市竜地区の向萩の浜において実施した.産卵は6~7月に3回確認され,産卵数は94~125個,ふ卵日数は56~63日,脱出数は70~87個体,脱出成功率は67.2~91.6%であった.このうち,1巣(6/20,94卵)について,現地に50卵を残し,高知市春野町の人工ふ化場に44卵を移植して脱出成功率を比較したところ,前者の56.0%に比べて後者では47.7%と低い値であったが,有意な差は認められなかった.混獲個体,沿岸居着き個体,漂着個体については,情報が得られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者が平成24年4月に勤務地に着任して以来,直ちに県下,周辺海域におけるウミガメの産卵,出現,混獲等に関わる情報収集に努めてきた.しかし,高知県沿岸域におけるアカウミガメの産卵期間が例年5月初旬から8月中旬であるため,適切な調査地を選択,確定し,本格的な産卵痕跡調査を実施するまでには至らなかった. また,本対象種が絶滅危惧種であるがゆえ,サンプルを採取する機会も希少で,これらに関する情報を安定的に収集できるようにするためには,現地の漁協,漁業従事者,遊漁者等とのネットワークの構築,信頼関係および調査体制の整備が不可欠であるが,まだ,そこまでには到達していない. そのような状況ではあったが,高知県土佐市竜地区の向萩の浜においては3回の産卵を確認し,それぞれふ化率の調査を実施することができ,産卵数,ふ化数,ふ化率等のデータを得る事ができた. 平成25年度の産卵痕跡調査に関しては,情報の収集,調査機器,人的・法的体制が整い,5月初旬に開始できている.
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今後の研究の推進方策 |
アカウミガメの繁殖生態,生活史等に関する研究を,産卵痕跡調査,定置網などで混獲された個体の調査,沿岸に居着く個体の調査,漂着個体の調査等の野外調査を総合的に組み合わせて実施する.これらに加えて,今年度は流れ藻に居着く幼稚個体の調査も追加したい.調査地は主に高知県下の全海域を対象とし,同時にそのための情報収集,研究ネットワーク構築も昨年度以上に推進していく. 産卵痕跡調査は本種の産卵期である5月上旬から8月中旬まで,高知県土佐市の仁淀川河口の東西に位置する仁ノ海岸,新居海岸において,毎朝,海岸を踏破して産卵痕跡の有無を確認するとともに,産卵期間,産卵日,産卵場所,産卵回数,産卵数・サイズ等を明らかにする.また,これらがふ化脱出した時点で,ふ化数,ふ化率,サイズ等をもとめ,調査地における本種の繁殖の実態を明らかにしていく. また,今年度は土佐湾沖に流れ藻が押し寄せる4月から10月にかけて,毎月1-2回の頻度で大学所属の船舶を使用して,沖合の流れ藻に居着く幼稚個体の調査を試行し,知見が極めて不足している幼稚個体の生活史に関して手がかりを得たい. 混獲個体,沿岸居着き個体,漂着個体については,通年,漁協,漁業従事者,遊漁者等から本種の採取,目撃等の連絡を待ち,情報が得られ次第,対応したい.生体を捕獲した際には血液サンプルを採取して,血液性状,性ホルモン濃度等から個体の成熟度を調べ,繁殖生態を明らかにするためのデータとする.またDNA用サンプルを解析して系群解析の一助とする.死亡個体については,解剖して摂餌生態,死因の調査を行う.
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