研究課題/領域番号 |
24810025
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
笹澤 有紀子 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (20594922)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / 破骨細胞 |
研究概要 |
破骨細胞とは骨を吸収する役割をもつ細胞であり、骨粗鬆症やがんの骨転移などさまざまな疾患の発症や進行に関与している。現在これらの骨疾患に対する治療薬としてビスホスホネート系製剤が臨床で広く用いられているが、骨蓄積による顎骨壊死などの副作用が懸念されており、新しいタイプの治療薬が求められている。一方で、破骨細胞はマクロファージ系の前駆細胞から分化し成熟するが、その機構の全ては明らかとなっていない。本研究ではケミカルバイオロジーの手法を用いて、破骨細胞の分化阻害剤を取得し、破骨細胞への分化メカニズムの解明を目指す。これまでに申請者の所属研究室では、核内タンパク質Pirinの阻害剤であるTPh A(Triphenyl compound A)が破骨細胞の分化を抑制することを見いだした。そこで、Pirinが破骨細胞分化に関与するか否か明らかにし、破骨細胞分化機構の一端を明らかにすること、またTPh A誘導体を用いてより強い破骨細胞分化抑制物質を取得することを目的として研究を行った。 破骨細胞分化におけるPirinの役割はsiRNAによるPirinのノックダウン実験により検証した。その結果、PirinのノックダウンはRANKLによる破骨細胞分化に影響を与えなかった。また、TPh Aによる破骨細胞分化抑制活性とPirinの発現量に相関がなかった。このことから、TPh Aの破骨細胞分化抑制活性はPirin阻害活性とは独立していることが明らかになった。次に、50種のTPh A誘導体を用いて、より強い破骨細胞分化抑制活性をもつ誘導体を探索した結果、TPh Aより強い活性を示す化合物を4種類を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
核内タンパク質Pirinの阻害剤であるTPh A(Triphenyl compound A)が破骨細胞の分化を抑制することから本研究ではPirinが破骨細胞分化に関与するか否か明らかにし、破骨細胞分化機構を明らかにすることを目的として行った。その結果、Pirinは破骨細胞分化に関与しないことが示され、TPh AはPirin以外のタンパク質と結合することで破骨細胞分化を抑制することが示唆され思わぬ進展が得られた。さらに、TPh Aよりも強い活性を示す化合物の取得に成功したことから、この化合物は骨疾患治療薬のリード化合物となるだけでなく、標的タンパク質同定のための強力なバイオプローブとなりうる。これらのことから、今年度は予定以上に研究が進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に発見した強い破骨細胞分化抑制活性を示すTPh A誘導体を用いて、標的タンパク質を同定する。TPh A誘導体の標的タンパク質をRANKL刺激したマウス骨髄由来マクロファージ(BMM)抽出物中より同定する。具体的には、光親和型固定化法により合成するTPh A誘導体固定化ビーズを、RANKL刺激したBMMから取得した細胞抽出液と反応させる。その後、ビーズで沈降することによりTPh A誘導体に結合するタンパク質を取得する。さらに、このタンパク質をMALDI-TOF-MS解析により同定する。 次に、同定したタンパク質が破骨細胞分化に関与しているか否か、siRNAによるノックダウン実験を行い検証する。同定したタンパク質に対するsiRNAを用いて当該タンパク質をノックダウンしたときに、RANKLが誘導する破骨細胞分化が抑制されるか評価する。以上の実験により、破骨細胞分化に関与するTPh A誘導体の標的タンパク質を同定する。さらに同定されたタンパク質周辺のシグナル伝達を解明することで、破骨細胞分化メカニズムを明らかにすることができる。
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