色素上皮由来因子(PEDF)は血管新生を強力に阻害する分子として知られている。その血管新生阻害の機構について、ラミニン受容体の一部やF1 ATPシンターゼとの相互作用が提唱されているが、詳細な生化学的解析が行われておらず、未解明な部分が多い。申請者の所属研究室では、以前の研究により、コラーゲン上にPEDF認識配列を同定した。本配列は、血管新生を促進する分子として知られるヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)の認識配列とオーバーラップしていた。くわえて、HSPGはPEDFと結合することが報告されている。そこで、生体内での血管新生の制御機構の一つとして、コラーゲン-HSPG-PEDFの三者間の相互作用が働いていると考え、研究を行った。 まず、コラーゲン-HSPGおよびコラーゲン-PEDF間の特異的な相互作用を評価するために、HSPGあるいはPEDFに結合するコラーゲン様3重らせんペプチドをそれぞれ化学合成した。くわえて、コラーゲン-PEDFおよびHSPG-PEDF間の特異的な相互作用を評価するため、コラーゲンあるいはHSPGへの結合能を失ったPEDF変異体を遺伝子工学的手法により得た。 つづいて、細胞の遊走の度合いを評価可能な創傷治癒モデルであるスクラッチアッセイを行い、三者間の相互作用が血管新生に与える影響を評価した。その結果、PEDF存在下で細胞の遊走は阻害されたが、さらにヘパリンを添加するとその活性は中和された。一方で、ヘパリン単体では細胞の遊走に影響は与えなかったものの、ヘパリン中和剤であるプロタミンを加えることで細胞遊走の阻害が確認された。 今後は、上記で調製したコラーゲン様ペプチドおよびPEDF変異体を組み合わせることで、それぞれの分子間の特異的な相互作用と血管新生の関係を解明していく。
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