研究課題/領域番号 |
24810029
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研究機関 | 大島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
浅地 豊久 大島商船高等専門学校, その他部局等, 講師 (70574565)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | プラズマ / イオンビーム / 電子サイクロトロン共鳴 |
研究概要 |
電子サイクロトロン共鳴(ECR)イオン源内でのイオン運動の基礎評価として,プラズマ生成用のマイクロ波をパルス変調し,軸方向に拡散するイオン電流をプローブ法で測定した.ガスはHe,Ar,Xeを用いた.最も質量の大きいXeが,パルスの立ち上がり時の拡散に遅れが生じると考えていたが,予想に反して最も速かった.これはXeの電離エネルギーが最も低いためプラズマ密度上昇が速く,閉じ込め磁場内での飽和密度に達し,軸方向へ拡散するイオンの量も多くなったと考えられる.一方,Heは軸方向への拡散量がXeの1/4程度と少なく,径方向へ拡散している割合が多いと考えられる.超小型ECRイオン源ではプラズマチャンバーを小さくしなければならないため,質量が小さいイオンを生成する場合は,径方向の閉じ込めにより強い磁場を用い,イオンの拡散を防ぐ必要があることが明らかになった.将来開発する超小型イオン源では磁石も小型であることが好ましいため,この結果より,所望のイオン種によって軸方向の磁場強度と径方向の磁場強度を最適化できる可能性があることが分かった.今後,シミュレーション等も検討する. フラーレンプラズマにおけるイオン挙動の解析については,フラーレンに希ガスを混合したプラズマを生成し,パルス応答を測定した.混合ガスによって解離パターンが違うことが明らかになったが,パルス変調およびガス混合ともにフラーレンの解離を促進してしまう効果があった.解離を抑制してフラーレンイオンを多く作りたい場合や高価数のイオンが不要な場合には,電子温度が低い条件で制御性の良いECRイオン源が向いていると考えられる.これは多価イオン生成に開発されてきたECRイオン源と正反対の性能となるため,新しい設計が必要となる.これらの知見をベースとし,超小型イオン源の前段階として,材料応用に適した動作範囲の広いイオン源の設計指針の検討に取り組む.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イオン運動の基礎評価については,He, Ar, Xeプラズマについてパルス応答測定を実施した.プラズマ中に設置したプローブを用いる方法および引き出したイオンビームの電流を計測する方法それぞれについて,順調に実験が進んだ.また,フラーレンプラズマにおけるイオン挙動の解析については,フラーレンが予想以上に低パワーのプラズマで破壊されることが分かり,プラズマの制御は困難であったが,マイクロ波出力や圧力を最低限まで落とすことによりプローブ測定およびイオンビームのスペクトル解析を行った.パルス変調および希ガス混合の結果より,高価数の多価イオンを必要としない場合は電子の加熱効率の低いECRイオン源の方がプラズマ生成の制御がしやすいことが分かった.以上のように,実験はほぼ順調に進んでおり,超小型ECRイオン源の設計指針構築に向けた知見が蓄積されてきた. 電子サイクロトロン共鳴イオン源の移設に関しては,無事搬入,据付が終わり,真空引きまで終了している.今後プラズマ生成,イオンビーム引き出し実験に進む. 研究活動スタート支援のため約半年の活動であったが,学会発表を1件行った.また,本年度の成果をベースとして,次年度には国際会議での発表も予定しているため,おおむね順調に進んでいると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,2年目は磁場の設計やプラズマチャンバーの設計検討を行う.超小型ECRイオン源設計の前段階として,今年度の知見から幅広い材料応用に適した動作範囲の広いECRイオン源の設計方針を検討する.特に電子温度の低い領域の制御がしやすいイオン源が産業応用に適しており,その設計方針の確立を目指す. ミラー磁場に関しては,放射線医学総合研究所の事例を元に永久磁石での構成を検討する.径方向の磁場については,6極と8極のマルチポールの違いについて過去の事例を調査し,有限要素法シミュレーションにより設計を行う. 実験としては,今年度移設したイオン源でプラズマ生成およびイオンビーム生成の準備を進め,並行してプラズマのプローブ測定システムの開発を進める.これを用いて,イオン源内のECRプラズマについて磁場等の変更によるプラズマパラメータの変化を調べる. 多価イオンナノ材料プロセスの検討については,ナノ粒子へのイオンビーム照射を検討していたが,評価が難しいこともあり,まずは質量の分かっているフラーレン薄膜に照射し,効果を観察する予定である.この際に原子内包フラーレン生成の可能性を検討したいと考えている. 今年度の成果を含めて,2013年9月のイオン源会議等で発表する予定である.
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