平成25年度には、韓国・浦項市の九龍浦にフィールドを絞ってフィールドワークを実施した。集中的に調査した内容は以下の2点である。第一に、「九龍浦近代文化歴史通り」の造成以降、九龍浦の当該地域がいかに観光化し、地域の住民たちはどのようにかかわっているのか。第二に、九龍浦近代文化歴史通りの中心的・象徴的施設である「九龍浦近代歴史館」がどういう展示内容で構成され、それが来館客(大体数は観光客)にいかに受け止められているのか、である。調査した結果、まず第一の点に関連し、九龍浦近代文化歴史通りは醜い空家になっていた敵産家屋の観光施設化をもたらした。もちろんその運営は当該家屋を所有する住民であり(例外がある)、新たな商売ができることに満足していると思う。それは、ここ2、3年で急増した観光客による収入の増大や寂れたまちの活性化、さらに、マスメディアからの注目度アップ(インタビューの経験など)などに起因する。第二に関連し、専門学芸員の存在しない浦項市では敵産家屋などの保存・活性化計画を実際に動かしたのは建設系の公務員であり、そのため、展示物のほとんどは、九龍浦近代文化歴史通りで大きなお店と日本文化体験館を所有・運営する人の個人的寄贈が大半を占めていることが明らかになった。そのためか、群山や木浦などの類似施設とは異なる「日本文化」展示室のような歴史館である。ここを訪れる人々の観覧の様子を調べたが、展示物の違いによるのか、群山や木浦とは違い、植民地時代の抗日運動や収奪史などへはあまり興味を示さなかった。韓国内の類似展示・歴史館などの公共施設の展示内容はかなり異なっており、それは見物客の反応・認識にも少なからず影響していると考えられる。
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