研究課題/領域番号 |
24820007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松浦 和也 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (30633466)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 哲学 / 科学史 / ギリシア / アリストテレス / 古代原子論 |
研究概要 |
2012年度は(a)アリストテレス『自然学』第3、4、8巻の文献学的読解を基礎作業として行いつつ、(b)自然哲学体系からの鍵概念の抽出、(c)アリストテレスの自然哲学体系の近世以降の哲学者による読解の特色、(d)ソクラテス以前自然哲学の思想史的整理を行った。 本年度の(a)と(b)にまつわる調査からは本研究達成の鍵は次の4つの課題にあることが浮き彫りとなった。1)<能動‐受動>関係の再調査:作用を受けるとき受動側は必ず物体的な変化を伴うのか、2)「大きさ」概念と物体:「大きさを持つもの」という表現は必ず「物体」を指示するのか否か、3)ギリシア語の「感覚的なもの」と物体:「感覚的なもの」という表現はいかなる文脈で物体と同一視され、いかなる文脈ではそうではないのか、4)「性質変化」と「移動」の関係:アリストテレスは運動を4種に分類するが、そのうちの性質変化は物体の移動を必ず伴うのか否か。以上のうち、2)は13年2月7日に慶応大学で実施した中畑正志著『魂の変容』書評会において特定質問者として参加した際に、示唆を得たものである。また、3)は下記発表論文第2項の執筆中に問いとして得られたものである。 また、(c)と(d)に関してはベルクソンの博士副論文である'Quid Aristoteles de Loco Senserit'に関する口頭発表を行った(下記学会発表第3項)。ベルクソンはアリストテレス『自然学』第4巻の議論順序を変更しているが、その読解の前提はアリストテレスの場所論を空間論として読むという読解方針であり、古代原子論における「空虚」は「何もない空間」と同値だという古代原子論解釈である。だが、古代原子論の空虚概念は空間を含意しない懸念があり、アリストテレスの自然哲学も空間概念を必要としない体系であることが明晰になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が扱う一次資料は、解釈のみならずテキスト自体にも検討を要する難解なテキストである。本研究は方法論として文献学的精査を採用している以上、目標達成には多くの作業時間を要する。ただし、2012年度に実施した作業に費やした時間は概ね計画通りであった。また、2012年度に行った『自然学』第8巻の精読や自然哲学体系全体の再検討が豊富な結実を産むにはまだまだ時間が必要であるものの、研究実績の概要に記した4つの課題が明晰になったことは研究達成に向けた大きな成果である。また、近世のアリストテレス解釈と元のギリシア語テキストを比較検討する作業の第一歩として本年度はベルクソンのアリストテレス解釈に着目したが、この比較検討はアリストテレスの自然哲学体系の背後にある世界観を対比的に浮かび上がらせ、また、ソクラテス以前の自然哲学の思想史的変遷を再考する必要を強く促すものであった。同時に、本研究は近世以降の西洋哲学研究にも重要な位置を占め得ることを改めて確認するに至った。それゆえ、2012年度の研究成果は2013年度に計画している『生成消滅論』研究への弾みとなったと自負している。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は計画通り『生成消滅論』第1巻を中心とした文献学的精査に従事する。このテキストにはソクラテス以前の自然哲学者の見解を批判する議論が多くあり、『自然学』に共通する物質観も見出せる。それゆえ、『生成消滅論』第1巻の精査は本研究にとって重要な位置を占める。さらに、平成26年度以降に計画している『生成消滅論』第2巻と『動物部分論』の分析へと進むための準備でもある。このような『生成消滅論』読解に関わる成果の一部は2013年8月開催予定のBESETO 哲学会議(北京大学)で発表したいと考えている。 『生成消滅論』の精査と同時に、読解から得られた物体観・運動観に関わる知見を他の著作中に見出せる立場に関連付けつつ整理する作業と、アリストテレスの自然哲学がソクラテス以前の自然哲学から受けた影響関係の検査も進めていきたい。この成果は、現在準備中の『生成消滅論』の運動論と『自然学』第3巻第1~3章で展開される運動論との関係を考察する論文に反映させたい。 また、前年度に続き、近世以降の哲学者たちが展開したアリストテレスの自然哲学解釈とギリシア語テキストとの比較検討も続ける。特に、上記研究実績の概要に記したベルクソンとアリストテレスに関する口頭発表の成果は学術論文の形として再構成し、オンラインジャーナルに掲載したいと考えている。
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