研究課題/領域番号 |
24820009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
近藤 洋平 東京大学, 総合文化研究科, 特任助教 (20634140)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 思想史 / イスラム学 / 宗教社会学 / 改宗とコミットメント |
研究概要 |
研究の目的および研究実施計画に基づき,本年度は(1)クルアーン,預言者ムハンマドの伝承におけるワラーヤ,バラーアおよび類義語の考察,(2)ワラーヤ,バラーアに関するハワーリジュ派諸派の主張の考察,そして(3)西暦8世紀から9世紀末までのバスラのイバード派,オマーンのイバード派の思想の分析を行った。 (1)について,クルアーンでは友および敵の語が頻繁に用いられており,両語がイスラーム思想において,人間関係を規定するさいの鍵語であることをおさえた。また「関わりを絶つこと」を意味するバラーアの派生語は,クルアーン中では直接的にはイスラーム共同体構成員には向けられていない一方,預言者ムハンマドおよび教友たちに遡る伝承では用いられており,イスラームの最初期からイスラーム共同体内には,ワラーヤを認定すること,またバラーアを宣告することが実践されていたことを明らかにした。 またイバード派は,ハワーリジュ派の一分派である。(2)では主として分派学の書を用い,ワラーヤとバラーアに関するハワーリジュ派諸派の見解をまとめた。そしてイバード派の思想には,ハワーリジュ派諸派の主張と類似する点,また異なる点があることを明らかにした。 (3)では,当該時代の思想を,イバード派への入信とコミットメントという観点から考察した。そして当時のイバード派の学者たちは,宗教的個別主義の立場から,イバード派の教えを受け入れる者のみを神のワラーヤを有する信仰者として認知し,そして構成員が他宗派への二重のコミットメントを持たないようなしくみを作り出し,集団のまとまりを維持しようと努めていたことを明らかにした。これにより,同時代のイバード派共同体の特質の一端を明らかにすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画・目的のうち,西暦8世紀から9世紀末までの時代の歴史的出来事の把握については,後代に執筆されたイバード派の歴史書を簡単におさえるのみにとどまった。そのため,本研究で扱う議論の社会的背景,あるいは議論と社会との関係の解明にはやや不十分な成果となっている。その一方で,入信とコミットメントのように,宗教社会学的観点から,同時代のイバード派の思想を読み解く手法が有用であることがわかり,それによって本研究の当初の計画および目的の推進が可能であると判断された。以上のことから,本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は,当初の計画通り,ワラーヤ,バラーアそしてウクーフについて,西暦10世紀のオマーンで活動したイバード派の学者クダミーとビスヤウィーの思想を究明する。 また当初の計画とあわせて,上記「現在までの達成度」で言及したように,イバード派における人間関係論の特徴を,主として宗教社会学の分野における研究成果を利用して推進していく。具体的には,「関わりを絶つこと」すなわちバラーアの概念と密接な関係をもつ,イバード派における罪概念の理解とその展開を,集団内で生まれる逸脱への対応という観点から考察する。またイバード派における為政者と臣民の関係にも目を向けることにより,同派内の人間関係のみならず宗教集団としての同派の特質をも明らかにする。罪概念,また為政者と臣民の関係については,クダミーとビスヤウィーもワラーヤとバラーアの文脈で論じており,効率よく研究を推進していくことが可能であると考えられる。
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