研究概要 |
本年度は哲学者アランの講義草稿・講義録を中心とした調査研究を行った。特筆すべき結果は以下の2点である。1)アランの生地モルターニュにあるアラン博物館で文献調査を行い、1920年代から30年代にかけてアランが寄稿していた心理学雑誌の目録を作成した。これをもとにしてパリのフランス国立図書館で前記雑誌の現物調査を継続した。とりわけ『心理学と生活』(La Psychologie et la vie)という雑誌は、これまで注目されてこなかったアメリカのプラグマティズムや行動主義とアランの関係を示す資料を含んでいるほか、いわゆる自己啓発の手段としての心理学の普及にアランが関与していたことを示しており、今後のさらなる調査を要する。2)フランス国立図書館では、主にアランの心理学講義に関する草稿調査を行った。1909~11年とのものと推定される「感情の哲学」(Philosophie des sentiments, NAF17706)を参照し、以前に作成した翻刻を修正したほか、1920年代の講義録(Cours donnes au college Sevigne. 1913-1923, NAF17704)の調査を行った。後者の講義録はその一部が1970年代に『感情の弁証法』(Dialectique des sentiments)と題して出版されているが、出版されたものはオリジナル草稿の半分程度を抜粋したものであること、編者による文章の意図的な改変や見落としが多数あり、心理学講義の批評校訂を今後継続する必要があることを確認した。これらの研究成果は現在執筆中のアランに関する単著に反映する予定である。
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