研究課題/領域番号 |
24820017
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
石居 人也 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (20635776)
|
研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
キーワード | ハンセン病 / 療養所 / キリスト教 / 信仰 / 自治 / 隔離 |
研究概要 |
本研究の初年度となった平成24年度には、合計8回大島青松園を訪れ、キリスト教信徒団体「霊交会」およびその会員たちの活動を跡づける歴史資料(以下、史料と表記)についての調査、デジタル写真撮影、および聞きとりをおこなった。 調査の過程において、同園の在園者が組織する自治会(協和会)の事務所倉庫に、従来把握できていたもの以外にも、木箱やダンボール箱などに収められた相当量の史料が残されていることが明らかになった。霊交会の活動の中心的役割を担ってきた歴代の会員たちが、一方で大島における在園者の「自治」活動にも深く関わっていたことは、かねてより阿部安成氏(滋賀大学)とともにおこなってきた調査・研究のなかで指摘してきたことであり、協和会に残る「自治」関連史料が本研究にとっても重要な意味を有することは論を待たない。そこで、霊交会での調査と併行して協和会での調査もおこなうこととした。 折しも、阿部安成氏による滋賀大学環境総合研究センターのプロジェクト研究、および同氏が滋賀大学を窓口として青松園から受託した研究のメンバーにも加わることとなったため、かねてより存在が知られていながら、充分な調査がなされてきたとは言いがたい、自治会に残る日誌の調査もおこなうべく、当初予定していた以上に足繁く大島を訪問することとなった。 霊交会では、受贈紙誌の調査・撮影を進め、その成果の一部を11月に研究会で報告した。また協和会では、日誌および新史料の全体像を概観したうえで、保管時の史料のまとまりをふまえつつ、個別史料の内容や形態についての調査をおこない、目録作成に着手した。完成分の目録は、ワーキングペーパー(紙媒体・web http://mokuroku.biwako.shiga-u.ac.jp/WP/No172.pdf)および研究年報(掲載確定)を用いて随時公開している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、近現代日本のハンセン病療養所における在園者のキリスト教受容が、隔離政策のもとにあった療養所に生きる在園者にとっていかなる意味をもつものだったのかを、主として国立療養所大島青松園のキリスト教信徒団体「霊交会」に即して分析することを目的としている。目的を達成するためには、霊交会での史料調査・写真撮影、史料に関する情報および史料の所在についての聞きとり、およびそれらをふまえた分析・考察が必要である。 平成24年度には、霊交会の活動が記録された紙誌、および療養所外のキリスト教関連の個人や団体から霊交会に寄せられた紙誌類をピック・アップしたうえで現地に赴き、史料の内容、書き込まれている事柄、挟み込まれているものなどについての調査・写真撮影と、霊交会関係者への聞きとりとをおこなう計画であった。あらかじめピック・アップした『霊交』『週報』(大島青松園キリスト教霊交会)、『嘉信』(矢内原忠雄編)、『聖書の日本』(政池仁編)、『永遠の生命』(黒崎幸吉編)、『聖書知識』(塚本虎二編)、『聖約』(藤本正高編)などの紙誌類については、予定どおり現地での調査・撮影を終え、現在、研究室で整理・分析をおこなっている。 加えて、史料の調査・撮影と併行して現地で続けてきた聞きとりのなかで、在園者が組織する自治会(協和会)の事務所倉庫に未把握の史料が多数現存するとの情報が得られたことは、大きな進展だったといえよう。現在は史料の全体像把握と目録作成を進める段階だが、霊交会を支えてきた歴代の少なからざる会員が、信仰同様「自治」に注力してきたことに鑑みれば、今後、かれらが「自治」に込めたもの、信仰と「自治」との関係、両者が交わるところに形成された人的ネットワーク、および両者がかれらの生にもった意味などについて、新たな史料を用いて考察を深め得る可能性が開けつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前年度の現地調査で得られた史料や情報の整理と分析・考察を進めるとともに、新たにピック・アップした史料について、国立療養所大島青松園での史料調査・写真撮影をおこなう。 具体的には、他療養所や療養所外のキリスト教信徒団体から霊交会に寄せられた紙誌類のうち、『あけぼの』(長島曙教会)、『沖縄聖公会祈の家 週報』、『沖縄聖公会時報』、『かぞく』(邑久光明園家族教会)、『求道』(求道社)、『十字架』(新庄基督教会)、『朝祷』(大阪クリスチャンセンター)などについて、霊交会での調査を進める。一方、平成24年度に新たに史料の所在が確認された自治会(協和会)での調査も継続する必要がある。 現段階の予定では、平成25年7・11月と平成26年3月にそれぞれ1回、2泊3日で現地に赴いて、霊交会での史料調査および写真撮影と、自治会での史料調査および目録作成をおこなう。前年度における新史料の発見は、継続的に現地に足を運んで関係を維持・確立するよう努めるとともに、情報の積極的な収集および情報精度の向上に努めてきたことの成果のあらわれだといえよう。それゆえ、今後も継続的な訪問と関係者への聞きとりは不可欠だと考えている。また、大島青松園に在園したキリスト教信徒で、のちに沖縄でハンセン病療養所の創設に尽力した青木恵哉についての史料・情報を得るため、沖縄愛楽園(沖縄県名護市)での調査も予定している。 現地調査後は、おもに研究室で史料・情報の整理・分析・検討をおこなうとともに、それらをふまえた考察をおこなう。最終的には、得られた成果をとりまとめ、キリスト教を介して療養所内の人的ネットワークや療養所内外のつながりがどのように築かれていったのか、およびそのことが在園者の生にいかなる意味をもったのかについて、研究成果を発表するべく、論文執筆を進める。
|