研究概要 |
本年度は、里耶秦簡の公開が一挙に進展した状況に鑑み、本資料の活用に重点を置いて研究を進めた。とりわけ里耶秦簡に示される秦代の行政文書の授受とそこにいかなる機関がいかにして関与したかという点を解読・分析することで、中国古代文書制度の特質と、それを担った地方統治機構の性格を明らかにした。 その成果として(1)2013年11月に京都大学人文科学研究所において開催された国際ワークショップ "Documents and Writing Materials in East Asia" において、"Relaying and Copying Documents in the Warring States, Qin, and Han Periods." と題する口頭発表を行った。本発表では行政文書の副本作成という現象が戦国・秦・漢代においていかに成立していったのかという過程をたどり、文書逓送において「受信文書を複製してそれを次の機関に逓送し、受信正本そのものは自機関に控えとして留めた」という一般に認識されているような方法は漢代にようやく厳格化したものであり、戦国・秦代においてそうした「正本の保管、複製本の逓送」という形式は厳格なルールを形成してはいなかったことを明らかにした。 (2)「里耶秦簡にみる秦代県下の官制構造」(投稿済)を執筆した。2012年に出版された2000点あまりの里耶一号井出土簡によって、これまでにない水準で秦県の官制を把握しうるようになった。これを受けて、一号井出土文書はいかなる官署の文書が含まれているかをより精緻に検討し、さらには県廷内外に置かれた諸機関の存在とその役割を論じ、特に県廷外において行政実務を担った「官」と総称される機関の性格について、県廷抜きには実務を遂行しえず、また「官」どうしの横断的な連携すら構造的に否定された他律的な機関であったことを論証した。
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