本研究は、中国的諸現実との対話を通じておこなわれてきた、中国ムスリムによるイスラームの再解釈――イスラームの「中国化」――が、近代に、どのように展開したかという問題の解明を目指すものである。より具体的には、民国期の代表的な中国ムスリム思想家、馬良駿(1957年没)や達浦生(1965年没)などが、中国の近代化や西南アジアのイスラーム改革思想に応答しつつ、イスラームの「中国化」にどのような近代的展開をもたらしたかを問うものである。 本年度の成果としては、第一に、達浦生の漢語著作『伊斯蘭六書』を分析した結果、同書におけるイスラームの「中国化」の近代的展開とその背景について、幾らかの新知見を得た。まず、当該書の中に、イスラームの「中国化」の近代的展開として、ムスリムと非ムスリムとの平和的関係の合法化を企図した、イスラーム法学上の本格的解釈努力があったことを、発見した。また、同様の営為が、馬聯元(1903年没)やその子、馬安義(1943年没)といった、その他の、近代の中国ムスリム学者が著したアラビア語作品にも見られることを、発見した。加えて、達浦生による当該の法学解釈が、近代西南アジアのイスラーム改革派のひとつに数えられる、ナクシュバンディーヤ=ハーディリーヤに淵源する可能性についての証拠を、発見した。以上の成果は、現段階で未発表であるが、できるだけ早くに論文として発表するつもりである。 第二に、現地調査を通じて、馬良駿のアラビア語著作『神学の要約』の一版本を新たに得た(デジタルカメラで撮影)。 第三に、現地調査を通じて、現代中国に流布するアラビア語・ペルシア語文献についての新たな発見があった。 第四に、20世紀初頭にオスマン語で書かれた、中国のムスリム事情紹介冊子の訳注作成作業を通じて、当時の中国ムスリムが抱えていた歴史的背景についても、一定の新知見を得た。
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