平成25年度の一つの重要事項として、研究代表者は次のことを挙げていた。すなわち、ダンサーと(ダンサーを教育・福祉・文化施設等に繋げる)ワークショップ・コーディネーター、および研究者と一般の方達とが交叉する実践型の対話会議の開催、である。これについては、テーマを掘り下げながら数回に渡り、継続・展開することができ、述べ150名ほどの参加者があった。とりわけ年度最後の回には、多分に体を動かしながら、その感覚を「一人称」の語り方で(つまり説明的な物言いではなく)他者に伝えるという試みをも行い、個人の体性感覚の伝達ないし共有の(不)可能性について試験した。そこから、体性感覚を類推するに際しての語彙の不足という事態が浮き彫りになり、また同時に、ダンスを語る言葉も、個人の感覚や日常生活から乖離してしまっていることが知られた。 さまざまな人が集まり、実技と対話を共にしながら、超域的な交感をするこのような場(ミーティング)では、思考や感覚の新たな回路が作られ、予想に終止しない思惟や感性が興される。とりわけ、本研究課題に関わるところでは、「体性感覚」が再認識され、最終の回ではそれ自体をテーマとしえた。子供や老人、障碍者や病人たちと日々接する現場(ex. 教育や福祉そして運動療法等を行う医院の現場)に従事する人の視角から照射されることで、体性感覚の問題は、美学・芸術学の圏域を超えて研究代表者の研究未来を暗示した。これは、今までの流れを踏まえながらも今後の研究を発展・開化させるものとして、当採択課題がもたらした成果と言える。 最後に、これからの研究について一言するならば、「Somaesthetics」の提唱者としても著名なリチャード・シュスターマンの仕事はもちろんのこと、この種の研究におけるわが国の思想的な歴史を踏まえて、「ダンス」と「体性感覚」に関する自身の見解を世に問おうと思い定めている。
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