研究概要 |
本研究の目的は、中世後期イタリア都市の統治権力たるコムーネ(都市自治共同体)の特質とその変化を司法面から解明することであった。本年度は、14世紀後半から15世紀の民事司法の変化を跡付け、また刑事司法面から政治と司法との関係を考察した。特に、イタリア・ルッカ国立文書館やピサ国立文書館に赴き、裁判記録、公証人記録、議会議事録などを収集し分析を進めた。 中世後期の民事司法の変化について、ルッカの裁判記録簿や公証人記録簿から検討したところ、14世紀から15世紀にかけて、法学者による法形式主義的な裁判から、裁判官の自由裁量にたよる裁判へ変化していたことが明らかになった。この成果は、「紛争解決制度化の比較史―前近代における「裁判」と「裁判外」」研究会(秋田大学、2012年8月25日)において「中世イタリア都市の公証人と裁判」という題目で報告した。また「裁判からみた『新しい世界史』の試み」研究会(東京大学、2012年10月8日)においても「中世イタリア都市における契約と裁判」という題目で報告した。 刑事司法面については、議会議事録や執政機関Anzianiの決議録から検討し、裁判終了後にも議会への嘆願と恩赦の付与という道が存在したことを明らかにした。この内容については、関西中世史研究会(京都大学、10月27日)において「中世後期イタリアの司法と政治――自由裁量、恩赦、例外」という題目で報告したほか、ブラッチェル教授の退官記念論集に(Essays in Honour of Dr M.E. Bratchel, in press (2013))、"The gratia and the expansion of politics in fourteenth-century Lucca" という題目の論文を寄稿している。
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