研究概要 |
本研究の目的は、中世後期イタリア都市の統治権力たるコムーネ(都市自治共同体)の特質とその変化を司法面から解明することであった。本年度は刑事司法に焦点を絞った。2週間にわたってルッカ国立文書館において刑事裁判記録を閲覧、収集、分析を行い、帰国後も写真データの形で検討を行った。裁判記録以外にも、政治の場で作成される議会議事録や決議録を閲覧、分析し、政治と司法との関係を検討した。これらの史料を基にした成果はブラッチェル教授の退官記念論集(Essays in Honour of Dr M.E. Bratchel, in press (2013))の"The gratia and the expansion of politics in fourteenth-century Lucca" という題目の論文において公表される予定である。 ルッカの事例をイタリア都市の文脈で理解するためには、他都市との比較が不可欠である。中世後期のフィレンツェを対象に刑事司法と政治との関係を研究しているカリアリ大学のロレンツォ・タンツィーニ教授と個別にディスカッションを行った。その結果、ルッカとフィレンツェとの事例の共通性や差異が明確になり、さらなる比較検討の必要性を確認するに至った。 コムーネの性格は司法以外の行政活動からも見ることができる。中世都市の衛生環境に関する研究をしているアムステルダム大学のギュイ・ゲルトナー教授とも、ルッカのコムーネの特性について議論した。そこでは都市行政の幅広い観点から司法とコムーネを検討する必要性を確認した。
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