研究課題/領域番号 |
24820040
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
西田 昌之 国際基督教大学, 付置研究所, 研究員 (40636809)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 文化人類学 / スマトラ沖地震 / タイ / 防災文化 / コミュニティ防災 / 災害援助 / 災害の語り / ボランティア |
研究概要 |
本年度は、チュラーロンコーン大学政治学部にカウンターパートになって頂き、タイ国立研究委員会の認可の下、パンガー県タクワパー郡ナムケム村周辺で2か月間の現地聞き取り調査と資料収集を行った。本研究は①スマトラ沖地震による津波被災から復興までサイクルの記録保存、②鎮魂の癒しと儀礼、③個々の構成員の癒しの多様性、④外部アクターとのかかわりの4点について調査することを目的としており、個々の項目についての今年度の成果を述べる。①第一年目の現地調査では当初の期待通り、津波の被災から復興まで8年間一貫した語りが被災住民の中で記憶されていることがわかり、被災後のコミュニティ構成員の個々の動態を把握するのに適したデータが得られた。②鎮魂と癒しについては、ナムケム村を筆頭にアンダマン海沿岸村落では、津波慰霊祭が年中行事の中に組み込まれ、コミュニティ形成と観光招致のために活用されている。津波記念公園や記念碑の建設などハード面やコミュニティ防災というソフト面を含めて「防災文化」の創出が試みられている実態が観察された。③被災後のコミュニティの構成員は、土地の権利の有無、民族の違い、生業、家族構成、地元有力者とのつながり、避難場所の違いなどの要素によって援助を受けられる状況が異なった。そのために復興後の生活への不満や満足、優遇者への妬みを伝える語りに個々に大きな違いが出ている。④外部アクターに対する関わり方、協働の仕方について、特にNGOや海外の団体が多くかかわった地域では、外部団体の巻き込み方を学び、より自主的に地域住民の生活防衛の交渉を図るリーダー層が出現している。また海外援助が住民のなかに明確に記憶されており、そのかかわり方がその後の住民行動(海外旅行者への評価、防災ボランティアへの参加)に影響を与えている。以上、本年度の調査を通じて、当該地域の概説的な問題を把握し、次年度の着目点の設定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タイ王国から調査許可を受け、チュラーロンコーン大学政治学部客員研究員として現地調査、資料収集を開始した。すでにアンダマン海沿岸タクワパー郡の被災地と再定住地域で2か月間の住み込み調査を行い、当該地域において研究者としての立場を確立し、インフォーマントを順調に増やし、情報の蒐集を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
調査地における文献調査によって、政府やNGOなどによってタイ語レポートが多く出版されていることがわかり、本研究における災害記録の緊急保存の重要性は低下した。しかし、多くの記録は被災直後から3年間に集中し、また地震の支援活動の正当性を示す記述となっているために被災者の多様な言説、態度に対する配慮はあまり見られない。今回の聞き取りによって被災から現在に至るまで、被災前の家族の構造、立場、土地家屋の所有権、被災の仕方によって、それぞれの世帯のその後の復興に格差が生じているということがわかってきたため、次年度はこの被災者の多様性に考慮して記録し、震災後コミュニティの長期的な変化についての新しい知見を加えてゆくことにする。 特に今後は研究の少ない再定住地域での調査を行い、1.被災地域・再定住地域の社会構造の長期変化、2.再定住地域での復興の格差問題、3.コミュニティ再生と結束の課題について調査を進める。
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