本年度はパンガー県タクワパー郡ナムケム村と周辺被災者住宅で2か月間の現地聞き取り調査とタイ及び日本で研究発表を行った。本研究は①スマトラ沖地震による津波被災から復興までサイクルの記録保存、②鎮魂の癒しと儀礼、③個々の構成員の癒しの多様性、④外部アクターとのかかわりの4点について調査することを目的としており、個々の項目の成果を述べる。 ①第二年目の現地調査ではナムケム村と集落外再定住地を調査し、それぞれ津波後の復興の語りの違いを明らかにした。防災活動を通じて語りが統合されていったナムケム村に比べて、再定住地では復興・防災に対するより多様な評価が残されている。②鎮魂と癒しについては、ナムケム村では津波に関する式典を伴う「防災文化」の創出をもって癒しを得ている。他方、被災者住宅の一部では災害後9年間の間に復興できたものが流出し、復興に取り残されたものが行き場を探して流入する現象が見られる。十分に救済されなかったことに不満の残している者同士が境遇を語り合う中に癒しを見出している状況が見られた。③被災後のコミュニティの構成員は、土地の権利の有無、民族の違い、生業、家族構成、地元有力者とのつながり、避難場所の違いなどの要素によって援助を受けられる状況が異なった。そのため復興後の生活への不満や優遇者への妬みに個々に大きな違いがある。④外部アクターに対する関わり方、協働について外部団体の巻き込み方を学び、自主的に地域住民の生活防衛の交渉を図るリーダー層が出現している。また海外援助が住民のなかに明確に記憶されており、その後の防災などの住民行動に大きな影響を与えている。 本研究は更にタイと日本の学会で結果の発表を行った。また12月19-23日までの期間、東京三鷹で研究報告会として日本、タイ、アメリカの芸術家、若手研究者と共に日泰の津波経験を繋ぐ企画展示を開催し、研究の社会還元を行った。
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