研究概要 |
本研究は、クレタ島における1299年の和平締結の政治、社会的背景を明かにすることをめざした。そのうち、ここでは平成25年度における本研究の進捗について、資料収集、分析作業、成果発表の3点について述べておく。 まず、資料収集については、前年度に引き続いてヴェネツィアの国立文書館にて資料の閲覧を行った。平成26年2月17日から平成26年2月26日にかけて当地に滞在し、関連文書の収集に努めた。 次に、分析作業について述べる。本年度は主に二通りのアプローチで資料分析を進めた。ひとつは、年代記や和平文書などの記述に基づいて、1299年和平の政治史的・制度史的な意義を検討する作業である。その結果、1299年和平が、ヴェネツィアから見たときのアレクシオスを中心とした「山間部のギリシア人共同体」の誕生の瞬間ととらえられるべきという結論に達した。また、公証人文書の分析からは、交渉の仲介者となったアンドレアス・コルナリオとアレクシオスとの密接な関係がうかがえ、かつ、アレクシオスが地域の教会からの地代譲渡を受けているなど、アレクシオスの地域掌握の実態も明らかとなった。 収集した資料、ならびに資料分析の結果の公開について、本年度は2回の学会報告を行った。平成25年5月11日に京都大学において開催された西洋史学会にて発表し、その概要については『西洋史学』第251号において掲載された。また、平成25年5月26日に一橋大学において開催された歴史学研究会大会においても発表を行い、その概要は『歴史学研究』第911号に掲載された。加えて、本研究と関連する成果として、共著である『ビザンツーー交流と共生の千年帝国ーー』(全288+vii頁、うち本研究代表者はpp. 205-231, 278-285. を担当)も出版された。
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