研究課題/領域番号 |
24820044
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
渡名喜 庸哲 東洋大学, 大学共同利用機関等の部局等, その他 (40633540)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | レヴィナス / 倫理 / 破局 / 共生 |
研究概要 |
本年度は、20世紀フランスで活躍したユダヤ系の哲学者エマニュエル・レヴィナスの思想を主たる研究対象とし、それが同時代の社会的・政治的な文脈のもとでどのように発展したのか、とりわけ彼自身の体験した「破局の経験」から、「共生の倫理」と呼ぶべき思想がどのように形成されていったのかを明らかにすることを目的とし研究を遂行した。同時に、そのような思想が、2011年の東日本大震災をはじめとする現代における「破局の経験」に照らしてどのような意義を有しうるかをも検討課題としている。本年度は、レヴィナス思想については、とりわけこの哲学者が第二次世界大戦中に捕虜収容所において執筆していた捕囚ノートをはじめとする『著作集』第1巻の原典精読を進めた。また、研究会を定期的に開催し、レヴィナスの著作の輪読や最新の研究著書の合評会などを行ない、国内のレヴィナス研究者らとの意見交換を行なった。現在における「破局の経験」に関しては、広島市、福島市、いわき市に赴き、聞き取りをはじめとする現地調査を行なったほか、ジャン=リュック・ナンシー『フクシマの後で:破局・技術・民主主義』の翻訳を公刊した。また、関連書籍の収集・調査をすすめた。さらに、フランス国パリ市に海外出張をし、高等師範学校におけるセミナーに参加し当地のレヴィナス研究者との意見交換をしたほか、図書館等での文献収集を行なった。これに加えて、この滞在期間中に、パリ第7大学において上記の国内調査の成果に基づいた研究発表を行なった。国内においても、上記のナンシーの著作をめぐるワークショップを東京大学との共催で2月23日に行ない、これまでの研究成果を公表し、とくに若手哲学研究者らとの意見交換を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度の研究については、研究開始時に、主として以下の三つの軸を計画していた。一つ目は、『レヴィナス著作集』第1巻にみられる、戦中期にレヴィナスが執筆していたテクストの精読、二つ目は、「破局」の問題について哲学的にアプローチをしていた同時期の思想家のテクストの調査および精読、三つ目は、フランスにおける短期滞在による文献収集・意見交換である。 第一の点については、『レヴィナス著作集』第1巻の翻訳作業を一通り終えるなど、予定通り研究を遂行することができた。また、レヴィナス哲学に関連する最新の研究文献などを収集することもでき、今後の研究の見通しを一定程度つけることができたと言える。 第二の点については、とりわけギュンター・アンダースの著作読解およびアンダースに関する研究文献の調査・読解を行なうことができた。 第三の点については、2月に一週間の短期滞在を予定通り行ない、文献収集・フランスの研究者との意見交換とも期待された成果を上げることができた。 以上に加え、国内での聞き取り調査を三度にわたり実行できたほか、フランス滞在期間中のパリ第7大学における口頭発表、2月の東京大学における口頭発表において本研究の中心課題の一つである「破局の経験」をめぐる研究成果の一部を公表することができたのは、当初の予定には含まれていなかった予想以上の成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の主だった課題は、本研究課題の後半部をなす「共生の倫理」が、レヴィナスを中心とした現代哲学のなかでどのように理論化されてきたのか、またそれがどのような意義を有するかを明らかにすることにある。また平成25年が本研究課題の最終年度であるため、これまでの成果をまとめ公表していく。 第一に、レヴィナス研究に関しては、上記の『レヴィナス著作集』精読および関連して行なってきた研究の成果をまとめ、平成25年度内に何度か口頭発表を行なう予定である。そこでの各方面の専門研究者との議論を通じて、研究完了時にはまとめて公刊したい。 第二に、レヴィナスと同時期の思想の関係についても、本研究の主たる課題である「破局」と「共生」の問題に即して、ハンナ・アレント、ギュンター・アンダース、シモーヌ・ヴェイユといった思想家らのテクストの分析および比較研究を進める。最終的には、このような同時代の問題系のなかでレヴィナスの思想がもつ意義を明らかにするのが最終的な目的となる。 なお、平成25年度も前年度と同様にフランスにおいて短期的な調査旅行を計画している。パリ大学およびフランス国立図書館などにおいて、上記の研究の遂行に必要な資料の収集および関連する研究者との意見交換、研究発表を行う予定である。
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