研究課題/領域番号 |
24820055
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柿沼 陽平 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (70633311)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 東洋史 / 経済史 / 中国史 / 古代史 / 貨幣史 / 前漢 / 王莽 / 後漢 |
研究概要 |
本研究は、前漢前半期以前の貨幣経済史に関する拙著『中国古代貨幣経済史研究』と、後漢貨幣経済史に関する拙稿「後漢時代における貨幣経済の展開とその特質」等をふまえ、前漢前半期~王莽期の貨幣経済史の詳細を明らかにしようとするものである。従来一般に当該時代は貨幣経済衰頽期とされることもあり、具体像も必ずしも検討されてこなかった。しかし前後の時代に貨幣経済があり、各時代に独自の特徴が看取される以上、中間の時代にも独特な貨幣経済があったろう。とくに王莽は非常に特徴的な貨幣政策を打ち出したことで知られる。そこで本研究では『漢書』王莽伝を分析し、前後の時代の史料を精読することで、当該時代の貨幣経済の実相解明に取り組んだ。 第一に、学会報告 The monetary economy in ancient China: A Multiple Currency Economy?やThe Emergence and spreading of coins in China during the period of Warring Statesを通じて前漢前半期貨幣経済の大まかな状況を確認した。 第二に、王莽伝を含む『漢書』に関する先行研究を論文「『漢書』をめぐる読書行為と読書共同体―顔師古注以後を中心に―」で整理した。 第三に、王莽期以降の貨幣経済について論文「从走馬楼呉簡看孫呉的中央集権化和軍制」や「蜀漢的軍事最優先型経済体系」等で検討した。 以上をふまえ、後漢貨幣経済に大きな影響を与えた西羌の関連研究を翻訳し(論文 王明珂著中国漢代の羌(五)―生態学的辺境と民族的境界―)、後漢財政に関する専著の書評で私見を提示し(書評 渡邊信一郎著『中国古代の財政と国家』)、後漢貨幣経済について研究報告「後漢王朝滅亡の経済的遠因―対羌戦争と通貨膨張―」を行ない、王莽期貨幣経済を理解するための準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前漢後半期~王莽期の貨幣経済史に関しては従来研究が少なく、史料も多くない。そこで本研究では2012年度に、その前後の時代の貨幣経済史に関する研究をまず行ない、2013年度に前漢後半期~王莽期の貨幣経済史を本格的に解明するための準備を整えることに専念した。その結果、前後の状況が闡明されたのみならず、その成果を英語・中国語で発信することにも成功し、その成果の一部は『中国経済史研究』や『史学月刊』といった中国最高レベルの査読誌(いわゆる核心誌)に掲載された。また英語の研究報告も数ヶ月以内に英語の編著に掲載がきまった。これらは中国側・欧米側の研究者による評価なくしては起こりえなかった幸運であり、海外の研究者の批判を受ける絶好の機会である。また『漢書』王莽伝の訳注を作成するにあたり、『漢書』に関する従来の注釈書を整理したが、その副産物として論文「『漢書』をめぐる読書行為と読書共同体―顔師古注以後を中心に―」を発表できた。これはたまたま榎本淳一氏が研究報告の機会をくれたことによるもので、やはり想定外の進展であった。もっとも、2012年度以内に王莽期の貨幣経済史に直接関わる論文を発表できたわけではないものの、すでに研究の外壕を埋めることには成功したと考えており、今年度いよいよ研究対象の本丸にのりこむ予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の基礎的な研究成果を活かして、本年度はいよいよ王莽期の貨幣経済史に関する考察を開始する。手順としては、まずこの分野で卓抜な成果を出しておられる山田勝芳氏の緒論文の再検討から始めたい。とくに前漢前半期の経済史に関しては、山田氏の見解と私見のあいだにはすでに一定程度の乖離があり、前漢武帝期の塩鉄専売制に関しても私見(史学雑誌掲載)は先行研究と大きく異なる。よって前漢後半期に関する研究内容も当然他の見解と大きく乖離してくるものと予想される。そのさいに王莽期前後の財政史に関する考察も行なうが、その源流に相当する武帝期以前の財政に関しても近年、関連出土文字史料が急増しており、それをふまえた新たな研究が期待される。また王莽滅亡後に中国大陸には隗囂や公孫述などの諸勢力が一時的に乱立したが、それらの諸勢力の経済状況に関しても詳細に検討する必要がある。その手段として近年急増している簡牘史料を検討するほか、激戦区となった漢中や蘭州などの実地調査を行ない、その経済地理の実相を詳細に検討する必要がある。さらに現地で出土する銭幣を調査し、前漢後半期~王莽期の古銭の出土状況を網羅的に確認し、貨幣経済の動向を古銭学的・考古学的に検討する必要もある。以上をふまえ、前漢前半期以前の貨幣経済史に関する拙著『中国古代貨幣経済史研究』と、後漢貨幣経済史に関する拙稿「後漢時代における貨幣経済の展開とその特質」等の両者の内容をすりあわせ、中間の時代の貨幣経済史を闡明したい。
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