申請者はこれまで、中国古代において貨幣(経済的流通手段)とそれを中心とする貨幣経済が具体的にいつどのように展開し、それが当時の社会にいかなる影響を与えたのか、また当時の人びとがそれにどう対処したのかについて検討してきた。本課題はその一環をなすもので、とくに前漢武帝~王莽期の貨幣経済史について検討した。 上記研究では、①経済人類学・経済社会学の関連文献を渉猟して分析を加え、②最新の出土文字資料を渉猟して分析を加え、その上で、前漢後半期~王莽期の経済史関連史料(『史記』平準書や『漢書』食貨志)に逐条的な注釈を加えた。 以上の検討の結果、前漢後半期~王莽期の貨幣経済の動態は、従来一般に想定されているほどに激変を伴ったものではなく、むしろ継続的側面が濃厚であると考えるに至った。またその反面、前漢貨幣経済は武帝期に大きく変化したようである。この点を論じたのが、学会報告The monetary economy in ancient China: A Multiple Currency Economy?)である。 だがその後、戦国時代~前漢前半期に大規模な政商たちが商業・貨幣の担い手だったのに対して、前漢時代後半期には小規模な商人たちが活躍するようになる点が重要だと考えるにいたった。それこそが前漢時代後半期~王莽期の貨幣と商業を論ずる上で、最大の謎であり、特徴であると考えるにいたった。そこで本年度は、やや迂遠な方法ではあるが、まずは戦国時代に大規模な政商たちが活躍した点とその理由について検討した。その成果は、本年夏頃にSpringer社から刊行予定の論文集(Roland Vaubelら編)に掲載予定である。
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