研究課題/領域番号 |
24820059
|
研究機関 | 日本映画大学 |
研究代表者 |
志賀 賢子(川崎賢子) 日本映画大学, 公私立大学の部局等, 教授 (40628046)
|
研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
キーワード | 日本文学 / 近代化 / 古典 / カノン形成 / 検閲 / GHQ占領期 / 文学論 / 文学史 |
研究概要 |
国内においては関連資料の収集と、早稲田大学図書館、早稲田大学演劇博物館等において資料の複写収集、整理を行った。とくに演劇博物館所蔵の占領期検閲台本ダイザーコレクションから重要な資料を複写製本することができた。 国外においては米国立公文書館およびメリーランド大学プランゲ文庫、マッケルディン図書館等において資料の複写収集、整理を行った。検閲のシステムおよびマンスリーレポート(毎月の報告書、メモなど)、東京地区のみならず大阪地区、九州地区の検閲現場のレポートなどを収集し、検閲処分の地域的な差異の分析とそれが意味することの考察に着手した。ジャンル別の資料収集においては、児童文学の古典再話・民話・伝説・お伽噺の文献、古典芸能とりわけ歌舞伎、文楽に関する政策資料を主にした。あわせて「封建主義」「国家主義」「軍国主義」概念に関する言説の収集を継続して行っている。占領期における「近代化」の過程とその内実の分析、「近代化」が「古典」を作り出す仕組みなどについて考察を重ねた。 上記の資料の分析考察を基に「GHQ占領期における文楽の変容―「古典」になること」『Intelligence』(13号、2013年3月31日刊、査読付)の論文を発表した。2013年4月27日には第75回20世紀メディア研究会において「GHQ占領政策と文楽―近代化と古典化をめぐって」(於早稲田大学)の研究発表を予定している。 このほかGHQ占領期の検閲と文学、メディアイベントに関する研究の一端が『定本久生十蘭全集』(全11巻、別巻1、国書刊行会、2013年2月完結)の本文校訂、解説解題の執筆に生かされた。 社会的還元として現代文学におけるGHQ占領を扱った小説作品の書評を週刊誌等に寄稿した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は9月交付であり3月末まで半年間の成果となる。短期間に具体的な実績を上げるために本年度の論文のテーマとしてGHQ占領期における古典芸能、文楽の変容を事例とし、資料を収集し、分析、考察し、口頭発表および論文発表を行った。衰退の危機に瀕した郷土芸能が、「古典」「芸術」概念によって評価されるに至る変化を米国側資料を援用してたどることはおおむね成功したと考える。査読付き雑誌に掲載することができた。 「封建主義」概念と「古典」概念を結びつけてこれを批判する占領期に特徴的な言説の諸相とそれについての分析考察は引き続き資料収集を含めて進行している。 上記論文及び口頭発表から導き出される次の課題は、以下のものが考えられる。舞台芸術の検閲における東京・大阪・福岡など管轄地域の方針による差異の影響について。これはGHQの検閲制度についての残された資料が、特に大阪地区について少ないために、掘り起こすことが困難であるが、同時代の新聞雑誌等の証言を収集しつつ考察したい。あわせて中央の大歌舞伎に対する検閲指導と地方の小劇団や旅まわりの劇団に対するGHQ検閲及び指導との相違がもたらしたものを大衆芸能領域の表現者と受容者の変容に視座を置いて考察することも行う必要がある。検閲者として日本「古典」にかかわったGHQ側の「古典」理解とその変容、さらにそれが占領期以後の国際的な日本研究に及ぼした影響に関しても、さらに考察を深める余地がある。 時代をさかのぼるなら、「古典」観の戦前戦中との連続と断絶について、概念研究の方法で再考する必要もある。それらの課題については二年目の研究によって達成したい。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き国内においては占領期雑誌新聞情報データベースを利用し、国立国会図書館憲政資料室における文献調査、早稲田大学中央図書館、早稲田大学演劇博物館における調査を並行して行う。「古典」「封建主義」「伝統」などのキーワードにかかわる記事動向調査、資料収集を蓄積する。 対象領域としては著名な文学者知識人の言説が展開される総合誌文芸誌及び大新聞メディアにとどまらず、これと並行して占領期における「芸能」文化、専門の文学者ではない人々の表現の場でもあった短歌俳句川柳などの「短詩型」ジャンルの変容について、GHQ占領期の検閲文書を集積したプランゲ文庫資料を掘り起こしながら分析考察する。占領期における明示的な「近代化」圧力と、非公然のうちに行われたGHQ検閲、および戦前戦中の文化ナショナリズムとは異なる評価のよりどころを求める「古典」の担い手(表現者、研究者、批評家、教育者)の総合的な力学のもとでの「古典」概念の変容という視角から、同時代の言説と表現を調査研究する。具体的には「短詩型」ジャンルについての文学的評価の揺らぎ、とりわけ「第二芸術論争」を上記の視角から再読し、考察する。 「芸能」については早稲田大学演劇博物館所蔵のダイザー・コレクション(占領期検閲台本・福岡地区)資料の意味を米国国立公文書館の福岡地区検閲資料を参照して批判的に検証する。 研究会、国際学会における発表と査読付き論文執筆を通じて専門的知識の供与、助言教示をうける。 GHQ占領期を中心とする本研究を文学史研究として相対化するために、戦前戦中の「古典」概念と占領期との連続と断絶について、占領期以後戦後占領期における文芸の「近代化」「古典化」「現代化」及び「国際化」について総合的に考察するための方法論と仮説の構築を試みる。
|