神奈川近代文学館蔵ラディゲ関係旧蔵書の書き込み調査及びラディゲ翻訳の研究を行った。ラディゲの心理小説『肉体の悪魔』及び詩集『燃ゆる頬』の堀旧蔵本には、堀による欄外の線引きや書き込み、紙の挟み込みや試訳の書き入れが見られる。二冊を含む堀のラディゲ関連の書物の書き込み調査を行い、堀辰雄がフランス語の辞書を引いて語句の意味を書き込みながら『肉体の悪魔』を読んでいく読書行為の軌跡を明らかにした。また、堀が翻訳した作品と『燃ゆる頬』の書き込みの跡が一致することを突き止め、書物が当時の使用原本である可能性が高いことを明らかにした。 また、コクトー関係の書物の調査を行った。堀が処女作「不器用な天使」執筆時に参照したと思われる『グラン・テカール』の書き込み跡、及び折り込みの跡が、「不器用な天使」の記述に流用された箇所と一致することを明らかにした。また、『ポトマック』が堀の翻訳発表当時の使用原本である可能性が高いことを明らかにした。以上のように、堀辰雄初期に大きな影響を与えた原書と創作・翻訳との連関を明らかにした。 以上の点について、それぞれ雑誌『奏』に論文を発表した。
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