研究概要 |
本年度は、「堀辰雄旧蔵洋書の調査(四)コクトー②」(「奏」27)および「堀辰雄『風立ちぬ』論―「死のかげの谷」におけるリルケ翻訳」(「文学」14(5) )を発表し、本研究課題の仕上げと一般への成果公開を行い、次の研究課題への新たな問題提起をおこなった。 まず、堀辰雄が初期の創作活動において大きな影響を受けたコクトー関連の蔵書書き込み調査を進めて報告した。堀の文学論的エッセイに関わるエッセイ集『諸君ご静粛に!』と『職業の秘密』の調査を進めた。目次にコクトーの書名と発行年が細かく書き込まれている点から、『諸君ご静粛に!』は、堀がコクトーのその他のエッセイ等を見ていく時に読書の手引きのように使用したものではないかと推測した。なお、このコクトー関連の書物の書き込みについては現在も調査を継続中である。 また、リルケ関係の書物の書き込み調査をもとに、代表作『風立ちぬ』最終章におけるリルケの「レクイエム」引用の意味について論じた。H01/211 Requiem : Für ene Frendin, Insel-Verlag, Leipzig, 1909.の p.7 ll.1-12 Ich habe Tote,~sobald wir es erkennen.およびp.21 ll. 8~11 Komm nicht~in mir.の箇所が、鉛筆で「」で括ってある。この一節は、堀がそれぞれ『風立ちぬ』執筆時に自らの手で翻訳した箇所であることがわかった。堀がこの箇所を参照したことを踏まえた上で、『風立ちぬ』におけるリルケ「レクイエム」が堀の翻訳作品であること、とりわけ作中の「私」の口調と合致するように訳されていることの意味を論じた。
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