本研究は、日本の「朝鮮学校」と韓国の「華僑学校」への人類学的現場研究を通じて、各々の学校の現状とその教育のもつ意味を実証的に把握し、それを比較することによって、異質な民族集団に対する日本と、かつて日本の植民地だった韓国両国のナショナリズム言説と実践における連続性と差異を実証的に確認することを目的とした研究であった。 朝鮮学校と韓国華僑学校の学校現場ならびに学校を中心としたコミュニティへの調査は、人類学的現場研究の手法が主に使用された。朝鮮学校への調査は、研究代表者の既存の研究結果に基づいて大阪の朝鮮中級学校と初級学校への参与観察調査と卒業生へのインタビュー調査を行った。 韓国の華僑学校へのデータは、文献資料と2012年8月から2013年9月まで、主に夏期と春期の休みを利用して行った韓国仁川市所在「チャイナタウン」と「韓国仁川華僑中山中学」への現地調査結果である。「韓国仁川華僑中山中学」は韓国で最も古い歴史の華僑学校であり、小学校から高等学校課程まで設置されて、2013年現在427名(小学部188名、初中部140名、高中部99人)の在学生がいる。この学校への集中的な現場研究は、主に2013年8月29日から9月12日まで行った。 調査の結果、韓国華僑学校の教育実践からは朝鮮学校とのある種の連続性は認められた。学校教育全般において民族主義的言説と「国民」への統合が強調されている日本と韓国の教育環境のなかで、「朝鮮学校」、「華僑学校」といった分離主義的教育空間が存在していることからも、日韓両国におけるナショナリズムとレイシズム、民族関係の諸現象における東アジア的共通性は認められる。ところが、植民地支配の記憶の有無という歴史的背景の差と、学校内部の民族構成、曖昧な「祖国」の存在感から、生徒のアイデンティティ構築及び管理には朝鮮学校と華僑学校の間に大きな差を生み出していることが分かった。
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