1.本年度前半の実績は、2013年3月に米国ニューヨーク公立図書館などで収集してきた資料を分析し、メスメリズムを巡る当時の言説を具体的に把握することができた点がひとつである。資料分析から得られた結果を踏まえ、ポーの創作論全体においてメスメリズムが果たした役割を捉えるべく、ポーの短編に限らず、詩、書評、エッセイ、書簡を分析した。中でも、ポーがホーソーンについて書いた書評“Review on Nathaniel Hawthorne's Twice-Told Tales”(1842)には、読書体験を通じて、メスメリズム的な効果を読者に与えること、つまり読書をしている短時間の間、読者の心を虜にし、“control”し、メスメリズムにかかってしまったかのような効果を読者に与えることを、ひとつのもくろみにしていた様子が明らかになった。 2.10月に行われた第6回日本ポー学会年次大会シンポジウム『ポーとメルヴィルー複製と変奏』では、同時代作家メルヴィルとの比較を試み、両者の作品における詐欺師に注目し発表した。ポーがメスメリズムの表現を用いている エッセイ、“The Power of Words” (1845)、詩Eurekaを再考し、ポーの短編だけにとどまらず、全体を通じてメスメリズムと彼の創作論について検証した。 3.最終的に、メスメリズムに関するこうした研究と、私のこれまでの骨相学に関する研究をつなぎ合わせ、定説となっているReynolds の解釈の再考を試みた。そして、ポーの擬似科学の使用は必ずしも合理的な視点を作品にもたらしているわけではないことを明らかにし、擬似科学の言説を脱構築しようとするポーの特徴を捉えるに至った。
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