今年度の研究計画は以下の5点を中心としていた。 1.澤田柳吉の音楽活動における作曲活動と楽譜出版の位置づけの考察、2.日本近代音楽館所蔵の澤田柳吉に関する自筆資料の調査および考察、3.雑誌記事に見られる澤田柳吉に関する記述の収集およびデータ整理の継続と分析、4.関西における澤田柳吉の音楽活動に関する記述の分析、5.東洋汽船音楽部における海外航路での活動の調査 「1」については澤田が作曲および楽譜出版した作品を可能な限り調査し、資料収集した。彼の作曲活動は東京音楽学校時代から昭和初期まで、生涯にわたって継続されていたことが明らかになった。彼の作品の作風は、習作期、模索期、円熟期に分けることができる。考察の結果は論文「澤田柳吉の作曲・編曲活動と楽譜出版に関する一考察」大阪芸術大学紀要『藝術』36号、pp.73-8およびCD『我が国最初の「ショパン弾き」澤田柳吉の世界』東京:ミッテンヴァルト、として発表した。「2」についてはすべての作品についてごく一部分の複写しか許可されなかったため、前述の出版譜およびSPレコードの調査に置き換え、資料収集を行った。澤田の遺族および故・クリストファ・N・野澤氏の協力により多くの資料を収集することができ、CD音源として発表することができたことは重要な成果であり、広く研究成果を知っていただく機会となったと言える。「3」および「4」については順調に収集しているが、分析および論文発表はさらに徹底した調査ののちに行いたい。主要な成果としては、大阪市立盲学校において音楽教師をしていた時代の演奏会プログラムを発見したことが挙げられる。貴重な資料であるが資料の使用に制限があるため、成果発表まで時間を要すると思われる。「5」についてはサンフランシスコへの調査旅行を実施した。この調査により、澤田はサンフランシスコにおいて演奏会は行っていないという結論を得た。
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