本研究では、初期フランドル絵画に描かれた祈祷者像の「モデル(模範)」を探究するために、当時この地を支配したブルゴーニュ公の祈祷者像と肖像を包括的に調査した。それにより、三代目ブルゴーニュ公フィリップ・ル・ボンの祈祷者像に、敬虔な信仰心と自身を称揚する表現が共存するばかりでなく、敬虔さと自己称揚の均衡をとろうと配慮する傾向がうかがえることが明らかとなった。また、初期フランドル絵画の注文主でありフィリップ・ル・ボンに仕えたニコラ・ロランの祈祷者像の分析からは、ロランがフィリップの祈祷者表現を踏まえ、抑制的な表現も取り入れつつ、自己を称揚する祈祷者像を表わしたことが示された。
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