研究課題/領域番号 |
24820070
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
天野 聡一 九州産業大学, 国際文化学部, 講師 (50596418)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 国学 / 源氏物語 / 受容 / 注釈 / 和文小説 |
研究概要 |
「賀茂真淵の『源氏物語』研究とその受容」について、初年度にあたる平成24年度は、以下3点の基礎研究を行った。これらの基礎研究によって得られた知見は、来年度以降論文としてまとめ、学会に公開してゆく予定である。 【1】賀茂真淵の『源氏物語』研究について:賀茂真淵の自筆書き入れがある『湖月抄』を閲覧し、一部の書き入れをノートに写し取った。真淵の書き入れには随所に修正が施されている。大幅に修正が加わる場合、はじめに書き入れた箇所に紙を貼り、その上から修正文を書くということを行っている。今回の調査では、この修正文に特に注意し、貼り紙箇所があれば、その貼り紙の下に書かれた文を可能な限り読み取りノートに写した。こうした作業によって、真淵の『源氏物語』に対する解釈の変遷が具体的に明らかとなる用例を収集していった。また、真淵の『源氏物語』研究の独自性、同時代性を明らかにするための下準備として、同時代の『源氏物語』研究についての調査を行った。具体的には、石野広通や五井蘭洲の『源氏物語』研究についての諸資料を閲覧し、写真撮影を行った。 【2】賀茂真淵の『源氏物語』研究の受容について:真淵の『源氏物語』書き入れ本、あるいは『源氏物語新釈』には、真淵門弟である村田春海や加藤千蔭による注記が加えられた例が散見する。24年度は既刊の賀茂真淵全集収載の『源氏物語新釈』及び実践女子大学黒川文庫蔵の加藤千蔭旧蔵賀茂真淵書き入れ『源氏物語』を対象とし、春海・千蔭の注記を抽出した。 【3】和文小説全般について:近世期の和文小説の位置づけを総体的に把握するため、これまで学会に紹介されていない和文小説を収集、整理し、重要と思われる作品は適宜翻刻を施した。24年度は、加藤景範『いつのよがたり』、作者不詳『嵯峨野物語』、作者不詳『袖のみかさ』の3点について、原本を閲覧し、写真撮影を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度の達成度はおおむね順調に進展していると言える。その理由を「研究実績の概要」で記した小テーマにそって述べる。 【1】賀茂真淵の『源氏物語』研究について:この小テーマの主目的は、賀茂真淵の源氏物語注釈書『源氏物語新釈』の最終形態と考えられている田安家寄贈本真淵書き入れ『湖月抄』を対象とし、真淵の『源氏物語』研究の実態を分析することである。田安家寄贈本は、現在国文学研究資料館に寄託されており、手続きを済ませれば閲覧可能な状態である。また、同本はマイクロフィルムにもなっており、複写申請をすることによってコピーを入手することも可能である。かかる好条件によって、この小テーマの研究はおおむね当初の予定通りのペースで調査を進行している。 【2】賀茂真淵の『源氏物語』研究の受容について:この小テーマの主目的は、『源氏物語新釈』の諸本を対象とし、そこに加えられた門弟(特に村田春海・加藤千蔭)による注釈を分析することによって、真淵の『源氏物語』研究が次世代に及ぼした影響を把握することである。『源氏物語新釈』は真淵書き入れ『湖月抄』なども含めると膨大な数があるが、24年度は既刊の賀茂真淵全集に収載された本と画像を入手済みの本を調査対象としたため、この小テーマの研究は当初の予定通りのペースで進行している。 【3】和文小説全般について:この小テーマの主目的は、近世期に作られた和文小説を広く収集し、その文学史的位置づけを行っていくことである。和文小説はこれまでそれ自体が研究対象となることがなかったため、未だ学会に広く紹介されていない作品が数多くあると考えられる。そこで、全国の図書館を中心に和文小説の収集につとめた。この小テーマの研究の進展はある意味「発見」という偶然性による面も大きいが、24年度は、3点の和文小説を閲覧・収集することが出来た。これは当初の予定以上の成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策について、「研究実績の概要」で記した小テーマにそって述べる。 【1】賀茂真淵の『源氏物語』研究について:24年度に行った『源氏物語新釈』の最終稿本と目される田安家本(国文学研究資料館)の部分的な書誌調査を踏まえ、より全面的・網羅的な調査を行う。その上で、特に注目される改稿箇所をピックアップする。具体的には、貼り紙によって訂正された箇所など、大幅に書き換えられた箇所を集中的に調査する。そして、改稿前と改稿後の文章を比較し、解釈の変更が生じた理由について分析してゆく。この作業によって、真淵の『源氏物語』解釈の変遷を明らかにする。 【2】賀茂真淵の『源氏物語』研究の受容について:24年度にデータ化した『源氏物語新釈』に対する千蔭・春海の書き入れ内容から、両者の『源氏物語』解釈を考察してゆく。それと同時に、千蔭・春海が著した和文小説に、彼らの『源氏物語』解釈がどのように関わっているのかについて、それぞれ分析する。この作業によって、真淵の『源氏物語』解釈の受容と、当時における小説創作と物語研究との関係を明らかにする。また、これも24年度に行った浜臣が執筆した和文小説の校訂作業を踏まえ、その作品分析を行う。その際、石川雅望との間で交わされた『源氏物語』に関する問答の内容が、『源氏物語新釈』とどのように関係するのかについて、分析と考察を行う。 【3】和文小説全般について:24年度に収集した和文小説の翻刻を完成させる。また、その内容分析を行い、論文として学会に紹介する。同時に、未紹介の和文小説の収集につとめる。
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