本研究「賀茂真淵の『源氏物語』研究とその受容」の目的は、賀茂真淵の『源氏物語』研究の実態を探り、それが門弟に与えた影響を把握することである。この目的を達成するべく、研究最終年度にあたる25年度においては、昨年度に収集した資料の整理と分析に多くの時間と労力を費やした。その成果を以下に述べる。 今年度の主な成果は、賀茂真淵についての研究にある。このテーマの目的は、真淵の書き入れのある『源氏物語湖月抄』(田安家本)を調査対象とし、その改稿過程を明らかにすることで、真淵の『源氏物語』解釈の変遷をより実態的に捉えることである。昨年度は田安家本の原本を閲覧し、一部の改稿過程をノートに写し取ることが出来た。しかしながら、原本は50冊以上に及ぶ大部なものであり、想定以上の労力がかかることも分かった。そこで、今年度は原本の全冊の複写を入手し、それに基づいて改稿箇所を網羅的にピックアップした。この作業は既刊の湖月抄や賀茂真淵全集を参照することで、より能率的に進めることが出来た。作業に際して、複写資料では判読が困難な箇所も多かったが、そのことによってかえって著しく改稿された箇所が明らかとなる場合もあった。 以上に加えて、本研究に関わる基礎研究として、以下2点の研究を行った。1点目は、賀茂真淵と同時代を生きた五井蘭洲の『源氏物語』研究についての分析。2点目は、五井蘭洲に和学を学んだ加藤景範による作り物語『いつのよがたり』についての分析である。以上の基礎研究により、賀茂真淵の『源氏物語』研究と真淵門弟による受容とを相対的に位置づけることが出来た。
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