本研究は、ドイツの「文化プロテスタンティズム」と呼ばれるリベラルな神学者たちに第一次世界大戦が及ぼした思想史的意義を明らかにしようとすることを目的とした。ヴァイマール期の神学史研究において、近年「自由主義神学」から「弁証法神学」への移行の過程について見直しがなされてきており、弁証法神学と呼ばれてきた神学運動(の特に初期)の担い手について、彼らがヴァイマール期ドイツの知的世界に登場した、「前線(フロント)世代」の一員として、「前衛(アヴァンギャルド)」的な宗教的言説を展開したと理解する視点を提供した。本研究ではこうした研究に基づきつつも、神学史の流れをさらに精緻に描き出すために、フランス文学史で近年注目されている「後衛」という視点を援用することを試みた。 その成果として、従来はいわゆる「自由主義神学」の代表者とみなされてきた神学者、エルンスト・トレルチの思想の展開について、前衛的神学思想の担い手であった前期から、第一次世界大戦を契機として神学における後衛へと変化したと整理することができた。しかも、その変化は「歴史的思考」という一貫した主題内部での強調点の変化として、連続的に理解することができる。こうした枠組みを用い、トレルチの思想を歴史的状況との応答として解釈した結果は、課程博士論文「神学史的方法によるエルンスト・トレルチ思想研究 ―歴史的思考の意味を中心に―」としてまとめられ、京都大学より学位(文学)を与えられた。 トレルチ以外の神学者についても「前衛/後衛」という枠組みが有効であるという見通しが得られた。特に、宗教史学派の代表的新約聖書学者、ヴィルヘルム・ブセットの発言には後衛的性格が明確に認められる。この成果については『基督教学研究 第33号』掲載の「ドイツ・プロテスタンティズムにおける前衛と後衛」として発表した。
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