研究課題/領域番号 |
24820073
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
高松 亮太 国文学研究資料館, 研究部, 機関研究員 (20634538)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 源実朝 / 金槐和歌集 / 和学 / 国学 / 賀茂真淵 / 上田秋成 |
研究概要 |
本年度はまず、真淵評注本系統の『金槐和歌集』諸本の渉猟とその整理、系統分類に努めた。資料調査に訪れた主な機関は、大阪府立中之島図書館(大阪市)、広島大学図書館(東広島市)、阪本龍門文庫(吉野郡)、浜松市立中央図書館(浜松市)、秋月郷土館(朝倉市)、岡山大学附属図書館(岡山市)、西尾市岩瀬文庫、お茶の水図書館(現石川武美記念図書館、千代田区)、無窮会図書館(町田市)などである。これらの調査成果などを整理することによって、諸本の流通・伝播状況などが明瞭に知られるようになってきた。特に、真淵門人林諸鳥や真淵に私淑していた大菅中養父らの写本が見出され、真淵からさほど時代が下ることのない評注の存在が確認されたことにより、真淵の加注や抜粋活動は数度に亘るものであったことが分かってきたこと、および後代の和学者たちが真淵の加えた丸印とともに、各自の見解によって丸印を書き加え、それが真淵の印と誤伝されていった様相などが明らかになったのは、大きな成果であった。 上記の資料調査を行う一方で、真淵が実朝に言及している初期の著書『国歌八論余言拾遺』や『国歌論臆説』から、『歌意考』、「鎌倉右大臣家集のはじめにしるせる詞」、書簡までを、前代や同時代の実朝評価と比較することにより、真淵の実朝評価の内実とその意義を炙り出す作業も同時に行った。その結果として、真淵壮年期における実朝評価は、前代あるいは同時代の人々の実朝評価と同断と見なし得ること、真淵の古典研究における実朝研究は『万葉集』研究の深まりとともに、比重が増していったことなどを明らかにした。 加えて、真淵紀行の生成過程と受容を考察することで、『金槐和歌集』伝播の補助線とするとともに、より広く真淵学の伝播を考察する足掛かりとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は、主に大阪府立中之島図書館(大阪市)、広島大学図書館(東広島市)、阪本龍門文庫(吉野郡)、浜松市立中央図書館(浜松市)、秋月郷土館(朝倉市)、岡山大学附属図書館(岡山市)、西尾市岩瀬文庫(西尾市)、お茶の水図書館(現石川武美記念図書館、千代田区)、無窮会図書館(町田市)などに資料調査に訪れたが、当初本年度に訪問する予定以上の機関への調査を行うことができ、真淵評注本系統『金槐和歌集』諸本の渉猟を行うことができた。また、収集した資料の全てを十分に精査するには至らなかったけれども、上記のような資料収集を整理し、系統分類することは予定通り順調に進めることができており、諸本の伝播・流通状況は明瞭になりつつある。 一方の真淵による実朝評価の内実とその意義の考察については、本年度中の論文化はできなかったが、予定通りの方策で、予定通りの成果を挙げることができた。すなわち「研究実績の概要」に記したように、真淵壮年期における実朝評価は、前代あるいは同時代の人々の実朝評価と同断と見なし得ること、真淵の古典研究における実朝研究は『万葉集』研究の深まりとともに、比重が増していったことなど、真淵の和学を相対化することによって、真淵の実朝評価の内実を明らかにすることができたと認識している。 以て、「(2)おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度の研究の中心であった資料調査を継続しつつ、真淵評注本系統『金槐和歌集』の流通状況を考察する対象を近世期だけでなく、近代短歌にまで及ぼし、真淵学伝播の様相をより一層明瞭なものとしていく。 まず、本年度に調査が及ばなかった数カ所の所蔵機関に資料調査に訪れ、真淵の評注や書入などの調査を行い、場合によっては写真撮影などの複写を行う。具体的な調査先は、甲南女子大学図書館、大阪府立中之島図書館、成田山仏教図書館、石川武美記念図書館などである。そして、本年度からの悉皆調査の成果をもとに、真淵評注本系統『金槐和歌集』の系統分類と伝播状況の考察を詰めていき、成果を論文としてまとめる。 一方、真淵評注本系統『金槐和歌集』が広く伝播していくのは、何も近世期に限ったことではなく、近代短歌界の正岡子規やその弟子筋のアララギ派歌人もその影響下にある。そこで今後は、近代短歌界への影響も射程に入れ、特に斎藤茂吉の真淵評注本系統『金槐和歌集』の蒐集活動と、その活動からみた茂吉の実朝研究について考察していく。近時見出し得た30点近い斎藤茂吉旧蔵の『金槐和歌集』版本・写本は、真淵の実朝顕彰活動が茂吉の実朝研究の基盤であることを示して余りあるものである。茂吉旧蔵書群を精査することにより、茂吉が入手・書入をした経緯や、茂吉の実朝研究における蒐集活動や書入作業の位置づけを検討する。 このように、本年度からの一連の真淵評注本系統『金槐和歌集』の精査による、真淵の実朝顕彰の内実を解明することと、その余波が近世後期から近代に至るまで如何なる変容を遂げたのかという史的展開を描くことを通し、『金槐和歌集』にとどまらない、近世後期から近代にかけての真淵学の受容を考える足場作りを進めていく。
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