本年度は、まず前年度に引き続き真淵評注本系統『金槐和歌集』の諸本の収集と整理を進めた。資料調査に訪れた主な機関は、成田山仏教図書館(成田市)、天理大学附属天理図書館(天理市)、掛川市立中央図書館、同市大東図書館、豊橋市中央図書館、立教大学図書館(豊島区)、東京大学総合図書館(文京区)などである。上記各機関への調査では、必要に応じて写真撮影および複写も行い、それらの分析を通して、諸本の流通状況をより明瞭にすることに努めた。 諸本の全体像については、所蔵機関の都合などで調査できなかった資料を除き、現在知られている、あるいは新たに知り得た資料約70点の調査をほぼ完了した。それらの分析によって、真淵による実朝評の系統分類、各系統の特徴、伝播に関与した人物などを明らかにし、真淵評注本の流布と、その過程における評注および合点の変容のさまを跡付け、各文壇における真淵学受容の一端を明らかにした(「真淵評注本系統『金槐和歌集』伝本考-上方における流布を中心に-」。また、アララギ派歌人にして源実朝研究の先駆者の一人である斎藤茂吉は、『金槐和歌集』を20点以上所有していたことで知られるが、その茂吉旧蔵本を調査することで、真淵評注本の近代における流布の様相と、茂吉の実朝研究における真淵評注本の位置付けを試みた(「真淵評注本系統『金槐和歌集』伝本考-上方における流布を中心に-」〈拙著『和学者上田秋成の研究』〈博士学位申請論文、2013〉所収〉。 本研究の目的は、真淵評注本の近世後期から近代における受容を明らかにすることはもちろん、その検討を通して近世後期の真淵学受容の様相を分析するところにあった。その意味では、上記真淵評注本の分析にとどまらず、真淵の孫弟子上田秋成やその周辺の万葉学などの諸活動を跡付けられたことも本研究の重要な成果であった。
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