調査研究実績: 「A:視覚表現に関する調査」では、本館所蔵の縄文時代や古墳時代の遺跡が描かれた大型油絵(大正時代作)や古墳時代の人物を描いた掛軸(昭和初期作)などの考古学に関係する絵画作品を調査し、実物の考古遺物とも照合し、博物館における美術と考古学の関係について考察した。これにより研究目的に掲げた日本美術における考古遺物の受容過程の一端を明らかにすることができた。調査の過程では、考古学研究者に流行していた絵葉書などの視覚表現媒体にも着目し、同時期の写真や図画教育、絵画技法と考古学との関係についても考察した。 「B:美術館・博物館における縄文土器のコレクションについての調査」では、国内では、考古遺物の蒐集家として著名な根岸家にて遺物や古写真の調査を行い、本館資料との関係および近代における古物収集の実態について検証した。そのほか東北歴史博物館などで考古遺物の蒐集に関する展示を見学した。海外では、スウェーデン・ストックホルムの東洋美術館及び図書館にて、本館所蔵の紀州徳川家旧蔵資料と関係のある縄文土器の調査を行った。本調査により、前年度の調査で明らかになった19世紀末のフランスにおける縄文土器への民族学的な関心とは異なる、20世紀初めのスウェーデンにおける先史考古学としての関心が明らかになった。海外調査では、ヨーロッパと日本の先史芸術観の比較に有益な資料を収集することができた。 研究成果の公表: 前年度の調査報告を兼ねて査読論文「ギメ東洋美術館所蔵の縄文土器―フォリー神父蒐集品の調査報告を兼ねて」(『武蔵野美術大学研究紀要 第44号』)を発表した。また、信州大学と茅野市美術館の招聘による造形作家を交えた美術館での公開対談や、根岸友山・武香顕彰会の招聘による記念講演、当館で開催した展示「特集陳列 うつす・つくる・のこす-日本近代における考古資料の記録-」でも研究成果を公表した。
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