研究課題/領域番号 |
24830001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
李 妍淑 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (90635129)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 比較法 / ジェンダー / 中国法 / 法政策 / 東アジア |
研究概要 |
本年度は、中国におけるジェンダー政策の現状と課題を明らかにするために、関連文献の整理と精読に加えて、現地調査と資料収集および調査結果の整理と資料の分析を行うといった実証的な手法により研究を進めてきた。具体的には、①中国のジェンダー関連論文の収集と分析、②婦女聯合会の運営実態やジェンダー法政策を反映したと思われる法律や裁判例に関する資料収集と分析を行い、③研究成果を学会で発表し論文として公表することを目標とした。 そのために前半作業として日本国内における情報収集をした。その一環として日本家族<社会と法>学会とジェンダー法学会において意見・情報交換を行い、中国文献が散在する関係大学の図書館で資料収集をした上で、本研究にフィードバックすることに努めた。特にジェンダー法学会では、個別報告を行い、一定の研究成果を発表することができた。 また、本研究の遂行に不可欠な資料を収集するため、海外出張も実行した。中国のジェンダー法政策の推進において重要な役割を果たしている婦女聯合会の運営実態を把握するために、関連資料の収集、婦女聯合会のスタッフや研究者へ聞き取り調査を行い、人的ネットワークの構築、研究の作業環境の整備に重点を置いた。資料収集の対象には、関連論文、機関誌、公文書、法令集、裁判例、入手可能な内部文書が含まれる。 婦女聯合会はもちろん、関係団体や実務家、研究者、女性当事者などを訪ねインタビューと資料収集を行った。時間と資金の制約上、必ずしも網羅的な現地調査ができたわけではないが、現地の人的ネットワークを利用して予想以上の成果を収めることができた。 以上の成果を含め、本年度の最大の課題でもあった博士学位請求論文を完成させ、北海道大学より博士(法学)学位を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究を進めるにあたっては、ジェンダーやフェミニズムに関する法学、社会学、政治学など広汎な資料・データの収集が不可欠である。また、中国において展開されているジェンダー法政策の分析に関しては、現地の専門家や関連団体の訪問し、関連資料を入手するほか、専門的知識の提供を受けることが欠かせない。その点、本年度は市場が円高で推移したこともあり、当初の計画よりも旅費等の支出を節約し、その分の費用を資料収集へと向けて効果的に活用することができた。また、その他として以下のような理由が挙げられる。 ①これまでの研究活動を通じて築いてきた人的ネットワークが予想よりも更に拡張し、綿密な現地調査計画を立てるなど行き届いた事前準備と現地での積極的な取り組みによって予定以上に本研究がスムーズに進行した。 ②中国語を母語とするため通訳を介する必要がなく、ジェンダー法政策のような論争的問題を中国側の建前に振り回されることなく実情に即して理解することができた。 ③学会や研究会の際に、当初の予想を超えた反響があったことから、そこで得られた知見を本研究にフィードバックさせ、全体のいっそうのブラッシュアップに役立てることができた。 ④博士学位請求論文を提出後も順調に審査が進み、年度を超えることなく学位(法学)を取得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、台湾のジェンダー法政策形成過程を整理し、関係官庁や関連女性団体がその際に担った役割を中国の比較対象として検討することによって、中国のジェンダー法政策の背景にあるジェンダー観の特色を浮き彫りにすることを研究目的とする。 具体的には、以下の方法で推進する。 上半期は、台湾に赴きジェンダー政策の取り組みに関する資料(論文、関係法律のコンメンタールなどを含む)の収集と分析に努める。台湾のジェンダー法政策の制定において多大な貢献をしてきたジェンダー法学研究者(陳恵馨(国立政治大学)/陳妙芬(国立台湾大学))らと意見交換を行う。同時に、インタビューを行うべき対象となる裁判所関係者や民間女性団体についてのアドバイスを受けた上で、ジェンダー問題に関する判例資料を収集し、ジェンダー法政策の制定後における適用状況や社会に与える影響や効果など、当初は想定されていなかった課題も含め、分析を行う。 下半期は、台湾で得られた成果をまとめ中国と比較検討し、本研究全体の成果発表に向けた準備を進める。そのための前段階として、申請者が所属する北海道大学基礎法学講座が主催する法理論研究会において成果を発表し意見交換を行う。その上で、鈴木賢/尾崎一郎(北海道大学)や井上匡子(神奈川大学)の各教授には本研究成果の論文草稿を送付し、レビューを受けることにする。各教授からは、比較法(中国・台湾法)/法社会学/法哲学の視点に基づき、修正すべき問題点の指摘を受けることによって、論文の質的向上に有意義な議論を行う。また、そこで得られた知見を反映させ、年度末には本研究成果として「北大法学論集」に論文を投稿し公表する。ほかに、中国での公表をも視野に入れ、毎年末に「婦聯」が開催する全国研究年会にて本研究の報告を行い、調査を通じて構築した人的ネットワークの更なる発展に努める。
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