研究課題/領域番号 |
24830009
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松岡 亮二 東北大学, 文学研究科, COEフェロー (80637299)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 努力の不平等 / マルチレベル分析 / 大規模データ分析 |
研究概要 |
本研究の目的は、学校間・地域間における社会経済的な格差が生徒の学習選択・行動に与える影響について実証的に解明することである。ブルデュー(1984)の行為理論(Theory of Practice)に基づいたマルチレベルモデル分析を行ない、学校間(高校)と地域間(小・中学校)の格差を明らかにし、現行の教育制度に対する政策提言に繋げることを試みた。 今年度行い発表した論文のうちの一つ(数理社会学会の機関誌「理論と方法」に発表)では、高校選抜の結果生じる学校間格差が、高校1年生の学習時間にどのような影響を与えるか実証的に検討した。PISA2006の日本データ分析の結果、通常授業、それに通塾や補習などの授業以外における生徒の学習時間は生徒と学校水準の双方において規定されていることがわかった。生徒の社会経済的地位と学力、学業に対する姿勢、それに通塾や補習参加が、それぞれ生徒の学習時間の長短に影響を与えていた。また、学校水準の結果によると、学校のランク、学校の社会経済的地位、それに普通科か職業科も、生徒の学習時間の長短に統計的に有意な影響を与えていた。生徒の学習時間に対して(1)学校水準の社会経済的地位がランクとは別の独立効果があったこと、(2)学業達成に対して積極的な姿勢が規定要因として有意であったことは新たな知見である。なお、学業に対する姿勢は、生徒の社会経済的地位との関連がある。恵まれた家庭で育った生徒は、学業達成に積極的な姿勢を持ち、それは15歳時点で学習時間に対して社会経済的地位や学力とは独立した影響を持つことが明らかになった。これらの結果から社会階層と学校制度、それに社会階層が基盤となって形成された学業に対する態度が、努力の不平等のメカニズムを作り出していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究成果を、3つの英字論文として学会誌に掲載した。また、所属先の東北大学大学院文学研究科グローバルCOEプログラム「社会階層と不平等教育研究拠点」においてもワークショップと、カリフォルニア州立大学リバーサイド校との共同シンポジウムで英語発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
主にTIMSSデータを使い、日本の中学校2年生について、それぞれの学校の社会経済的地位が生徒の学習選択・行動に影響を与えているかどうかを分析する。前年度に引き続きハワイ大学マノア校のRonald Heck教授、東北大学大学院・前グローバルCOEプログラム「社会階層と不平等教育研究拠点」の教授陣、それに今年度より所属している統計数理研究所の教授陣より助言を受けながら研究結果をまとめる。分析結果について、国内学会と国際学会で口頭発表し、それぞれの分野の専門家による助言を受け、複数の論文にまとめる。 また、他国のデータを用いて国際比較研究として発展させる予定である。たとえば、15歳(日本における高校1年生)段階でトラッキングがない国のPISAデータで、学校水準の要因が生徒の学習選択・行動に与える影響について分析し、その結果と本研究の知見を比較することで、高校トラッキングという制度的要因が持つ影響力が浮かび上がる。また、学校間・地域間で社会経済的レベルが比較的平等な国との比較も示唆に富んだものになると思われる。 国内外の専門家と意見を交換し、研究の方向性を絶えずチェックし、平成25年度内には学会発表、そして最終的な結果として、国内外の査読雑誌に投稿する。投稿先は、論文投稿状況を見て英字論文を中心にしながら柔軟に対応する。
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