本研究は、現在、被災地域で起きている(かつ継続している)現象を、震災前後のフェーズから捉え、①政策展開過程における情報媒介機能と民意反映のメカニズムの解明に取組むとともに、②<有事>の政策遂行下における問題生成過程と情報媒介機能の役割、の両面から捉えることによって、今後の地方自治ならびに震災復興に資する政策的インプリケーションを提示すべく取り組んできたところである。 これまで、被災地域の行政、福島県内外で継続して避難生活を送っている被災当事者、さらには、生活支援相談員など行政と住民を仲介する立場にいる人たちや団体などを主な対象として質的調査を実施してきた。これら質的調査の積み重ねによって見えてきたことは、被災自治体において、手続的公正の要素でもある「発話」や「対話」機会が極端に不足する一方で、それらが表向きに(対世論に対して)整備された民意集約の仕組みを通じて、かつ、国によって規定された復興スケジュールや予算措置等の作用によって政策が決定され、さまざまな施策・事業が展開されている構造である。 地方自治をめぐって、被災自治体・被災者を取り巻く構造は、良くも悪くも国の政策方針によって多大な作用を受け、そのことが、被災自治体・被災者のニーズをなかなか汲み入れられない制度構造的・社会システム的欠陥をも併せ持っていることが導出された。しかしその一方で、双方があたかも対立~分断している状態が表層的に(首長・住民あるいは学者からも)指摘されている背景には、長期的に当該地域への帰還や復興を前向きに捉えているという「共通解」が存在しており、それに向かって相互の信頼・協力関係を取り戻そうとするムーブメントが潜在的に存在していることを導出し、現状改善のために必要な政策的インプリケーションについて考察を行なった。
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