今年度の研究実績は以下の通りである。昨年度はロンドン外国為替市場が、1920年代から1930年代にかけて、一貫して機能していた点を明らかにした。昨年度の研究が、1920年代から1930年代にわたる長期的な動向に焦点を当てたこととは異なり、本年度の研究計画は、今まで自身が研究してきた1931年9月のイギリスの金本位制離脱前後の時期に焦点を合わせた。その理由は、当時のロンドン外国為替市場が、アメリカとイギリスという大西洋をまたぐ短期資本移動を結びつけるだけではなく、この時期の欧州での国際金融危機の連鎖の結節点の役割を果たしていたからであった。本年度は、昨年度末に実施した海外での資料調査から得られたデータを、今までに利用してきたデータベースと接合することで新たな知見を得ることが最大の課題であった。1931年9月にイギリスが金本位制を停止した時期の前後で、とりわけ金融に関わる経済量に大きな変動が観察できることを先行研究が指摘している。筆者自身もすでに、ロンドンの外国為替相場に大きな変動が生じていたことを明らかにしている。本年度の研究成果は、昨年度までに利用してきた為替レートのデータに新たなデータを加えることで当時のロンドン外国為替市場動向を再検討したことである。1931年9月以前の1931年1月の時期に、既に、為替レートの変動だけではなく、金準備の変動が観察できることを新たに発見した。本年度の成果と昨年度の成果を踏まえると、両大戦間期におけるロンドン外国為替市場の存在は、当時の市場参加者の将来見込みを顕在化させる装置として機能していた点を示している。 また、本年度に実施した資料調査からも、今回の研究をより広い枠組みで理解するための知見を得ることができたことも付記しておく。
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