研究課題/領域番号 |
24830016
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大久保 智紗 筑波大学, 学生生活支援室, 助教 (70637082)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 不快情動 / 二経路モデル / てんかん / 扁桃体 / 抑圧型 |
研究概要 |
適切な対処行動を選択させる重要な機能を果たすと考えられている不快情動体験は,情動刺激の処理がすぐに扁桃体に送られる皮質下経路と,情動刺激の処理を大脳皮質を経由してから扁桃体に送られる皮質経路の二経路から生起することが示されている。皮質下経路の情動生起は,扁桃体の情動評価によるとされている。そこで,平成24年度は,てんかん治療のために扁桃体を外科的に切除した患者において,皮質下経路における不快情動生起不全の可能性について(研究1),皮質経路における情動刺激の処理による不快情動生起の可能性について(研究3),その心理学的メカニズムから検討することを目的とした。研究1および研究3について,6名の扁桃体切除患者に対して実験協力を得た。 研究1においては,皮質下経路による不快情動の体験不全メカニズムについて、不快情動喚起刺激の閾下提示(刺激を意識的に知覚できないほどの短時間提示)後に,回避反応(行動反応の遅延)が生じないという仮説から検証した。その結果,仮説通り,不快情動喚起刺激の閾下提示では,行動反応の遅延が認められなかった。 研究3においては,皮質経路による不快情動体験の生起メカニズムについて,扁桃体が外科的に切除された患者であっても,不快情動喚起刺激を閾上提示(刺激を意識的に知覚できるよう提示)した場合は,その情動刺激が快か不快かの意味的評価は可能であることから,その後提示された単語の情動価(快/不快)判断課題に影響が生じるという仮説から検証した。その結果,不快情動喚起写真によって情動価判断課題という認知課題の遂行そのものに時間がかかるという影響は認められた。ただし,単語の情動価による影響が関与していない可能性が示され,扁桃体切除患者において,皮質下経路だけではなく,皮質経路においても不快情動体験生起不全が生じうる可能性とそのメカニズムについて示唆を与えるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
外科的治療のために扁桃体を切除した患者は,研究協力先である国立精神・神経センターに一定数いたが,研究の仮説検証のためには平均範囲以上の知的能力を有している必要があること,扁桃体切除患者が来院するタイミングと研究協力者である博士課程の大学院生が研究協力先に行くことのできるタイミングが合わなかったこと,研究協力に同意を得られない場合もあることから,研究協力を得られる扁桃体切除患者が想定より少なかった。そのため,平成25年2月までに実施を予定していた研究1および研究3は,3月まで延長して実施した。その結果,実験用ソフトウェアは1台のパソコンにのみインストールが可能であることから,平成25年度に実施する研究2の実験課題の作成についても遅れている。しかしながら,平成25年度に実施する研究2については,対象が大学生であることから予定通りに完遂できると考えている。 研究計画は予定よりやや遅れているが予定していた3つの研究を完遂できると考えられること,研究協力の得られた扁桃体切除患者は想定より少なかったものの,先行研究を踏まえても研究協力を得られた対象者数が限られたものになることはやむを得ず,分析は可能であり,かつ結果を示すことは可能であることから,本研究課題の目的であるニ経路モデルによる不快情動体験生起過程における心理学的メカニズムについて仮説検証を行うことはできると考える。ゆえに,平成24年度に到達すべきことは80パーセント程度できたと考えている。引き続き,平成25年度までの研究計画を遂行する必要があるが,研究の成果報告と,平成25年度に行う予定の研究2の実施が必要である。その2年間の研究計画から見れば,到達すべきことの50パーセント程度できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,皮質経路における不快情動体験の生起不全メカニズムについて,大学生を対象にした研究を行う予定である。実験プログラムの作成は予定より遅れたが,平成25年6月から実験を開始できるよう実験プログラムを作成する。その後は,研究2を平成25年12月まで行っていくのみである。 研究2の実施とともに,研究の成果報告や情報交換を国内外の学会で行うが,それにより本研究の問題点や限界と展望について考え,他の情動研究から刺激を受け,モチベーションを維持・向上させる。
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