研究課題/領域番号 |
24830020
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
板持 研吾 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (20632227)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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キーワード | 英米法 / 民事法 / 契約法 / 財産法 |
研究概要 |
物的約款(real covenant)と呼ばれる法制度について明らかにすることが本研究の目的である。土地を取引する当事者間で、土地に関する権利利益を譲渡するほかに、何らかの権利義務を契約上定めて置く場合があるが、こうした契約上の権利義務は通常、契約当事者間でしか法的な拘束力を有しない。しかしこれが契約締結者を超えて、土地に関する権利利益の承継者をも拘束するようにする機能を果たすのが物的約款法理である。計画初年度である平成24年度には、学説や判例におけるその構造を分析することを中心的課題とし、英米の財産法および法制史に関する諸文献を主として参照した。特に法制史の文献に触れる中で、中世から19世紀に到るまで用いられてきた訴訟方式(forms of action)の一つである捺印契約訴訟を原型とする契約類型が、現在通常「契約」として考えられるところのそれと異なる類型として存在、発展してきたのであり、それこそが物的約款法理を生み出す土壌であったとの仮説が得られた。二年目となる平成25年度にはこれを更に深めて検討する。 他方、物的約款制度の現代における実態をも本研究は視野に入れる。そこで、物的約款となる「約束」が実際に記載され、役所に登録、公開された不動産譲渡証書(deed)を収集、分析することも本研究の予定する方法の一つである。平成24年度にはアメリカ合衆国のいくつかの都市の証書登録所を訪れ、登録実務について聞き取りを行い、証書についても閲覧し、一部については写しを得た。これらの分析は未だ十分でないが、差し当たって次のことが言える。第一に、時代によって特に多く登録される証書の種類に変遷が見られ、概ね譲渡証書、不動産賃貸借、譲渡抵当、という順である。第二に、物的約款と評価されるべき文言はかなり多く見られる。第三に、極めて形式的な文言が現在でも用いられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
物的約款に関して、現代における理論状況の整理と、アメリカ合衆国内における実際の利用状況についての理解が、事の性質上完璧とはいかないものの、期待していた程度に進めることができた。当初予定では一年目に現代のアメリカ合衆国における部分を完遂するつもりであったところ、分析途上である。しかしこれは研究計画の順序を多少入れ替えたためであり、当初二年目に行う予定だった歴史的展開の分析について、既に一年目にいくらか着手し、一定の見通しを得た。以上を踏まえ、おおむね順調に進展しているものと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定と研究順序を入れ替えた結果、一年目に既にイギリス法制史についての検討をいくらか行い、一定の見通しを得られた。そこで、二年目となる平成25年度には、一年目に得た仮説をより深めて検討していく。また、順序入れ替えの結果二年目に積み残された課題にも取り組む。 以上の点を除き、申請時の予定の通り今後の研究も推進していく。すなわち、イングランドの法制史における物的約款法理の展開を追い、その理論的基礎付けを行うことが平成25年度の主たる研究課題であり、関連する史料や現代の証書等を引き続き収集、検討する。
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