本研究プロジェクトでは、中国沿海部に集中してきた製造業が、2000年代後半以降にどのような変化を遂げつつあるかを、産業立地に注目して検討した。 第一に、地域・産業データを用いた分析の結果、沿海部の産業集積地での「集積の経済性」の発生と、労働集約的産業の内陸部への移転が同時に観察された。第二に、貿易データの分析から、中国内陸での輸出の増加が見られ、これはエレクトロクスの製造請負企業(EMS)の立地移転によって牽引されていることが確認された。第三に、産業集積地での現地調査から、沿海部の有力な産業集積は、2010年代においても引き続き競争力を維持しており、この背景には、近隣地域への工場の拡大余地があることや、新製品の開発を行うことで付加価値を高めるといった取り組みが観察された。 以上から、中国製造業は、沿海部での規模を維持しつつ、内陸部へと取引ネットワークと立地が拡散しつつあると言える。「世界の工場」と呼ばれた中国の製造業については、ASEAN諸国への企業移転も増加しており、また中国企業の対外直接投資も増加している。しかし本研究で指摘したように、広大な中国の内部で、立地の変化によって幅広い品目で高い国際競争力が維持されるメカニズムが存在する点にも、注目が必要である。本研究は、中国国内での産業立地の変化を定量定性的に分析したが、今後、内陸部での調査を拡充する余地や、中国企業の対外進出が東アジア経済にどのような変化をもたらしつつあるかなど、更なる課題も発見でき、これらは今後の課題としたい。
|