本年度では、15世紀フィレンツェがバルカン半島やイベリア半島から行った赤色染料の輸入に関する調査を進めた。すでに報告者は、カンビーニ商会が残した備忘録の網羅的な調査に基づき、赤色染料輸入に関する詳細なデータを作成している。そこで本年度では、その歴史的背景をいっそう明らかにするため以下の研究をおこなった。 まず、フェデリーゴ・メリスやセルジョ・トニェッティらによるカンビーニ商会の研究を読み込み、カンビーニ商会が15世紀フィレンツェ経済にとりどれほどの重要性をもち、商会全体としてどのような活動を行っていたのかを調査した。 つぎに、カンビーニ商会が重要な活動拠点としたポルトガルのリスボンに着目した。報告者はオスマン貿易史研究というテーマの下で東地中海からの赤色染料輸入に着目してきたが、カンビーニ商会はリスボンからも大量の赤色染料「グラーナ」を輸入していた。それゆえ商会の赤色染料輸入について考察するには、商会とリスボンとの経済的つながりを明らかにする必要がある。本年度はこの目的のため、フィレンツェ商人とポルトガルとの経済的関係という広い視野から論じられた研究を参照し、商会がリスボンから赤色染料を輸入した歴史的背景を明確にした。また、ポルトガルに駐在するフィレンツェ商人についても具体的に調査した。 以上のように本年度では、カンビーニ商会の活動や商会とリスボンとの関係をより詳細に調べることで、商会が行った赤色染料輸入を地中海商業全体の中に位置付けるべく努めた。研究の結果、赤色染料輸入においてバルカン半島のみならずイベリア半島もまた高価な昆虫染料の供給地として重要であったことを明らかにした。そしてこの研究結果をイタリア歴史文化研究会において発表した。来年度以降、研究結果を論文としてまとめ掲載する予定である。 以上が、本年度の研究実績の概要である。
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