海外との比較における日本の教育と不平等の特徴を明らかにするために、本年度は以下の2点のアプローチから研究を進めた。1点目は、小学校段階と中学校段階の生徒を対象としたTIMSSデータを使用して、義務教育段階における学力と出身階層の関連構造を明らかにしたことである。海外と比較した場合の日本の学校教育の特徴として、義務教育段階における学力格差が小さいことが以前から指摘されていた。しかし、そのことを実際にデータ分析によって計量的に検討した研究は今までなかった。全国レベルでランダムサンプリングをおこなったTIMSSデータの分析により、義務教育段階における学力の学校間格差は確かに小さいが、中学校段階では私立中学校があることによって、それが大きくなっていることが示唆された。出身階層の学力に対する影響についても、小学校段階ではその影響のほとんどは学校内に生じているが、中学校段階では私立中学校を媒介として、その影響が学校間でも生じていることが明らかになった。申請者はこの分析結果を日本社会学会にて報告し、現在論文として執筆しているところである。 もう一点は、高校生調査を用いた、専門学校への進学希望者の分析である。日本の教育の制度的特徴として、学力を基準とした選抜をおこなうことや、教育内容の職業的レリヴァンスが弱いことが指摘されている。しかし、その点において、専門学校は例外的な特徴をもっており、しかも近年進学者が増加している教育機関である。分析からは、学力などをコントロールしたうえでも、父学歴が大卒である場合に、高卒就職より専門学校進学を希望させる傾向が近年生じている可能性が示された。申請者は、この分析結果を2012年度の教育社会学会で報告し、科研報告書に論文として執筆した。
|