ヒトの視覚研究において,これまでに用いられている画像提示装置では200 Hz程度が画像提示速度の限界であった.そのため,ヒトの視覚系がこの限界を超える高速情報に感度を持つか否かはほとんど着目されていない.本研究では従来の限界を超え最大5000 Hzの速度で画像を提示できる高速プロジェクタを用いることで,これまで未知の領域であったヒトの視覚系における超高速情報処理の存在を明らかとすることを目的とした.本研究によりヒト視覚系の高速時間処理の限界が明らかとなれば,視覚情報処理メカニズムの解明に大きく寄与し,視覚を利用した工学デバイスに代表される応用領域への貢献も期待できる. 本年度は,高速ディスプレイを用いて心理物理実験を実施するための環境の構築を行った.この際に必要となるPCから装置への画像送信プログラム,画像提示を制御するプログラム等のソフトウェア部分に関しては,装置のメーカーから提供されているAPIと心理物理実験に最適化されたC++ライブラリPsychlopsを組み合わせることで対応した.特に,画像提示の制御が一般的に心理物理実験で用いられるライブラリとは異なっているため,実験の実施に対応できる記載方法を明示した.加えて,作成したプログラムによって画像を実際に提示し,その提示タイミングを測定した結果,十分な時間精度で実験を行えることを確認した. 本年度の成果により,高速プロジェクタを用いた心理物理実験の実施が可能となったと言える.一方現状では,この装置において使用できる画像の形式が特殊なものであるため,画像形式の変換に別のアプリケーションを用いる必要がある.こうした画像変換の制御部も実験プログラムに組み込むことができれば,より簡便に実験を行うことが可能となると考える.
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