本研究の目的は、民族自決問題の解決について、複合型パワー・シェアリング(権力分有制度、Complex power sharing、以下CPSと略)を用いた政策実践の有効性について分析・研究を行い、「CPS」が持続的発展と平和の基盤構築をどのように促し、民族間のトラブルをどのように解消しているのかを明らかにすることであった。 CPSとは、主にケンブリッジ大学と米カーネギー財団が推進しているプロジェクトで、近年の民族紛争の解決に向けて暴力行使と引き換えに自治政府の樹立を承認する手法を採用している。報告者は、平成24年度にCPSの手法で分析した、北アイルランド、ボスニア、コソボに実際に出張を行うことで、これらの国の歴史、民族状況、宗教、政治・経済、文化、社会事情について知識を蓄えることができた。そしてその研究をふまえた上で、中東で起きているシリア、リビア、イスラエル・パレスチナ間の民族問題の解決の可能性を探った。また、米ジョージタウン大学および国立公文書館を訪れ、資料収集にあたった。 最終年度である平成25年度に実施した研究の成果としては、平成25年7月に、「植民地、資源、内戦―アルジェリア、リビア、そしてシリア」『海外事情』を、平成25年8月に「「軍事介入の論理」M. ウォルツァーと M. イグナティエフ―シリア問題に寄せて―」『一橋社会科学』をそれぞれ発表した。加えて平成26年9月には、岩波書店より単著『国際平和論』を出版する予定で民族自決問題と複合型パワーシェアリングの問題について論じている。
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