研究課題
本研究は、性分化疾患と薬害HIVの2つのケースを取り上げ、両者に共通する「医療によって逸脱が増幅される経験」を抽出し、比較分析を行った。本研究は、相互作用論、社会運動論、身体論を用いて聞き取り調査にて得られたデータを分析する。それにより、当事者が身体を通じてまわりの社会(社会運動)と行う相互作用を基に構築する意味世界・社会的世界を明らかにしようとするものである。効率的に研究を進めるために、初年度では当事者と医師との関係も含んだ「家族関係」に焦点を当てて研究活動を行った。また、本研究の根幹となる理論の構築をめざし、当事者が身体を通じて経験させられる「逸脱」をめぐる考察を行った。具体的には、以下3点について明らかにし、学会発表(3回)を行い、論文(2本)にまとめた。1.これまで医療社会学で展開されてきた「医師-患者関係」の議論を整理したうえで、従来の型にはまらない関係性のあり方を示した。特に薬害HIV感染被害を受けた患者と担当医師の関係性に着目し、当事者の語りを基に背後の社会との関係性も明らかにした。結果として、医師のそれまでの経験が患者との関係に大きな影響を与えていることを明らかにした。2.医療処置を受けることにより、以前の状態よりも「逸脱」してしまった身体を受け入れる経験を取り上げた。医療の介入によって身体の逸脱が「増幅」されるケースを論じるうえで必要となると考えられる視座を示した。3.身体への医療による介入が、当事者に与える影響についてとりあげ、「逸脱」の視点から理論的構築を試みた。結果として、当事者の身体における逸脱は、「増幅」する逸脱と「深化」する逸脱という2つの逸脱経験によってなることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に従い、初年度では、当事者の家族関係について、医師との関係も含めて明らかにした。また、理論的考察として、当事者が経験する身体の「逸脱」について明らかにし、学会発表(3回)と論文(2本)の成果を公表している。これらのことから、現時点における達成度としては、順調であるといえる。
平成25年度では、初年度に明らかにした当事者の家族関係を通じた意味世界のあり方をふまえ、社会運動に関わっている、もしくは関わったことのある当事者の意味世界を明らかにする。これにより、医療によってその「逸脱」が増幅される経験をもつ当事者の社会的世界をダイナミックに捉えることを目指す。2年間の研究成果として、学会で発表すると同時に、論文として発表する。①分析枠組みの検討:初年度に行った理論的考察を基に、当事者の意味世界についての新たな概念を構築する。具体的には、当事者の家族関係と社会運動への関わりについて、その相互作用の過程をより示すことができるような概念図を作る。そして、シンボリック作用論の系譜に照らし合わせ、本研究の独自性のひとつとして示すことを目標とする。本研究が示す分析枠組みは、性分化疾患、薬害HIV感染のケースのみならず、今後増えると予測される医療事故のケースに対し、示唆を与えることができると考える。②国内調査:前年度の調査結果から明らかになった当事者の家族関係についてのデータを基に、当事者の社会運動との関わりを明らかにする聞き取り調査を行う。また、前年度の調査において確認・追加で聞き取りが必要になった場合は当事者の協力を得られるように努力し、調査を継続して行う。③海外調査:前年度の調査データをふまえ、当事者の社会運動との関わりを明らかにする聞き取り調査を行う。国内調査と同様に、追加で聞き取り調査が必要になった場合は当事者に協力を仰ぎ、メールなどの手段を通じて対応する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
GCOE Working Papers 次世代研究101 「再本質化」される親密圏と新たなシチズンシップ
巻: なし ページ: 23、 34
West East Journal of Social Sciences
巻: ISSN 2167-3179 ページ: 19, 32