研究課題/領域番号 |
24830046
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
松井 智子 国立民族学博物館, 民族文化研究部, 外来研究員 (90632498)
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研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2015-03-31
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キーワード | 女性移民 / 人身売買 / 人身取引 / 被害者支援運動 / タイ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、女性移民および人身売買被害者に関する言説を、国際レベル/送り出し国内レベル/支援運動の現場レベルに区分して分析し、それらの言説と女性移民および人身売買被害者当事者の多元的なリアリティとの関係性を明らかにすることである。 平成25年度は女性移民・人身売買被害者支援運動の展開についての資料調査を行った。1990年代以降の女性移民・人身売買被害者支援運動について、支援運動組織レベル・タイ社会レベル・国際社会レベルの資料を収集し整理した。 1.支援運動組織レベル:タイにおいて女性移民・人身売買問題に取り組んでいるNGOなど支援運動組織による出版物、報告書、ニュースレター等を収集し、整理・分析した。多様化する近年の支援活動を捕捉するため、タイ以外の国々を対象とする組織についても資料を収集し、比較の視点を得た。2.タイ社会レベル:この問題に対するタイ政府およびタイ社会の認識を、官公庁資料と主要新聞から整理した。3.国際社会レベル:国際移住機関や国際労働機関など、国際機関によるタイ人女性移民・人身売買にかかわる調査報告書等を収集し、国際社会レベルの背景、問題認識、論理を整理した。 以上より、女性移民や人身売買被害者への支援活動は様々なレベルで行われているが、様々な組織の設立経緯や運動の主体、活動理念等を整理すると、この問題がタイを含む送り出し社会の文脈から提起されているばかりでなく、日本や米国などの先進国から異なる文脈で提起されていることが明らかとなった。すなわち、支援活動は必ずしも当事者のニーズに基づいて行われてはおらず、国家間の政治的思惑や特定の宗教的価値観などにより方向付けられている。女性移民や人身売買の被害者という存在は、女性の移動の自由と女性の身体の管理・保護といった問題をめぐるアリーナとなっている点など、主に資料調査で得られた言説の分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、女性移民・人身売買被害者支援運動の展開について、1.支援運動組織レベル、2.タイ社会レベル、3.国際社会レベルの三つのレベルで資料調査を行う計画であった。 1.支援運動組織レベルでは、当初の計画通り資料収集と分析を行うことできたほか、資料の収集範囲をやや拡大修正し、タイ以外の国々を対象とする組織についても資料収集し比較の支援を得ることができた。 2.タイ社会レベルでは、主要新聞記事の整理に予想以上に時間がかかったため、当初の計画より若干遅れている。 3.国際社会レベルでは、当初の計画通り資料収集と分析を行うことができた。 以上、三つのレベルの資料調査の進捗状況を踏まえ、本研究課題の達成度を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の研究の推進方策は次の二つである。 第一に、タイ社会レベルの資料収集を行ったあと、女性移民・人身売買被害者支援運動の多元的リアリティについての調査研究を行う。筆者がこれまでのフィールドワークで築いてきた関係を利用して、女性移民・人身売買被害者にアクセスし、当事者が支援活動をどのように認識し、関わっている(いた)か、支援活動の外ではどのような社会関係を結び、それらの関係は支援活動とどのように連関しているかといった調査をもとに、彼女らの帰国後の生活世界のダイナミズムを描き出す。この作業は同時に、当事者の関わる支援運動が、決して支援する側の一方的な論理に染まりきらず、支援を利用しつつも、単なる「被害者」としてではなく主体的に生きる女性たちとのコミュニケーション過程によって揺さぶりを受けており、多元的リアリティを構築していることを描き出す作業となることが見込まれる。 第二に、平成25年度と平成26年度の調査研究の成果を総合した考察を行うことが挙げられる。女性移民および人身売買被害者に関する各レベルの言説と、当事者運動の多元的なリアリティとの関係性を明らかにすることが課題となる。
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