研究課題/領域番号 |
24830052
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
谷口 智紀 島根大学, 法文学部, 講師 (50634432)
|
研究期間 (年度) |
2012-08-31 – 2014-03-31
|
キーワード | 租税法 |
研究概要 |
本研究では、知的財産権をめぐる課税問題のうち、知的財産の評価をめぐる問題を検討した。本研究の目標は、知的財産権の固有性を評価に反映しつつも、評価に合理性、客観性を持つ評価手法を明らかにし、知的財産権の評価の適正性を歪める納税者と租税行政庁の恣意性を排除する仕組みを構築することにある。本年度(第1年度)は、我が国の知的財産権の評価をめぐる課税上の問題点を以下のとおり指摘した。 第1に、国外関連取引においては、知的財産権取引では比準可能な外部データ(独立当事者間取引)を探し出すことが難しいことから、独立企業間価格の算定が難しい。我が国では、客観的な算定方法が十分に確立しておらず、移転価格税制の適用において納税者の予測可能性が十分に確保されていないことが問題であると指摘した。第2に、租税法領域では、知的財産法領域における評価とは別に評価手法を構築することが可能である。しかしながら、実際には、知的財産権の評価をめぐる具体的な取扱いは、租税法実務に委ねられている。ルールが設けられなければ、強力な課税権限を持つ租税行政庁が恣意的課税を行い、納税者の予測可能性が害されるという問題が生じると指摘した。 知的財産権は、通常資産とは異質なものであることから、通常の資産課税と同一に取扱うことには限界がある。合理的かつ客観的な知的財産権の評価手法を広く社会に提示し、速やかに知的財産権の評価のルール策定しなければ、知的財産権取引課税が租税行政庁の恣意的課税の温床となりかねない。租税行政庁の裁量や通達に頼らざるを得ない知的財産権の評価をめぐる課税の現状が確認できた。 租税行政庁の恣意性を排除し、納税者の権利である租税法律関係における予測可能性の確保に寄与するためには、知的財産権の評価手法が明確化されなければならない。 本研究によって、以上のことを明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、知的財産法分野の先行研究を租税法領域に持ち込むことができるか否かを検討し、さらに、アメリカ租税法との比較法研究の手法を用いることで、知的財産権の固有性を評価に反映しつつも、評価に合理性、客観性を持つ評価手法を提示することを目指している。平成24年度(第1年度)は、租税法や知的財産法に関する著作や論文等を所蔵する研究機関で文献収集を行うとともに、租税法実務家へのインタビューを行った。そして、知的財産権の評価をめぐる具体的問題を明らかにし、知的財産法分野における財産評価に関する先行研究を租税法領域に持ち込むことができるか否かを検討した。 具体的には、租税法関係の著作・論文等を多数所蔵する、公益財団法人日本税務研究センター租税図書室(東京都品川区)公益財団法人租税資料館(東京都中野区)にて、文献収集を行った。知的財産権の評価に関する知的財産法領域の先行研究の調査を目的として、公益社団法人著作権情報センター資料室(東京都新宿区)、一般財団法人知的財産研究所図書館(東京都千代田区)にて、文献収集を行った。 知的財産権の評価が争点となった租税争訟(裁判例・裁決事例)の検討を通して、知的財産権の評価をめぐる具体的問題を明らかにした。 裁判例・裁決事例の検討からでは明らかにすることができない、未だ我が国では潜在化している知的財産権の評価をめぐる課税上の問題点や、租税法実務における具体的な取扱いについて、租税法実務家にインタビューを行うことで、知的財産権の評価をめぐる今後生じうる問題を明らかにした。知的財産法領域の評価手法を租税法実務に取り入れることの可否ついても、インタビューした。 以上のとおり、本研究は、順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度(第2年度)は、前年度に引き続いて、租税法や知的財産法に関する著作や論文等を所蔵する研究機関で文献収集を行うとともに、アメリカのワシントン大学での現地調査を行い、知的財産権の保護を重視するアメリカでは租税法上いかなる立法措置が講じられているかを検証する。そして、合理的かつ客観的な知的財産権の評価の仕組みをいかに構築すべきかを提示する。 平成24年度(第1年度)の研究によって明らかにできた我が国における知的財産権の評価をめぐる課税上の問題点の解決を図るために、知的財産権の保護を重視するアメリカとの比較法研究を行うことで、合理的かつ客観的な評価手法を提示することを目指す。 具体的には、第1に、アメリカ租税法との比較法研究のため、アメリカにおける知的財産権取引をめぐる課税問題に関する文献収集を行う。また、国内文献についても、適宜、文献収集を行う。 第2に、アメリカのワシントン大学にて現地調査を行う予定である。ワシントン大学では、知的財産法及び租税法を専門とされる研究者に対するアメリカの知的財産権課税の現状、とりわけ、アメリカではいかに知的財産権の適正評価を行っているかについてインタビューを行う。 第3に、アメリカとの比較法研究を通して導出できた知的財産権の評価手法には合理性と客観性が担保されているか、また、実際に運用可能な評価手法といえるかを、論文発表や学会報告を通して、研究者や租税法実務家に意見を求める。専門家からの批判的意見を踏まえて、最終的な研究成果(知的財産権の評価手法)をまとめあげる予定である。 なお、現在のところ、本研究を遂行するうえでの問題は生じていない。
|